林原健氏は、インターフェロンの発明で世界的なバイオ企業として著名だった株式会社林原が会社更生法の適用を申請して破綻した時の同社社長だ。
本書は、林原という、研究開発力では世界的に有名な岡山の同族企業の歩みと、経営破綻に至る経緯を経営者の眼で記した書で、事の真相や経営者の心情を赤裸々に吐露した力作だ。
新刊書として発売されるやいなや、大手書店の店頭から飛ぶように平積みの本がなくなっている。それだけ反響は大きく、世界的な優良バイオ企業の林原がいかにして経営破綻に至ったのかは関心を呼んでいる。
また、本書のテーマは、副題にある通り、「同族経営への警鐘」 だ。日本の企業の多くが同族経営であり、中小企業の殆どだけでなく、トヨタを初め多くの大企業もまた、同族経営の側面を多くの日本企業は持っている。
林原健元社長は本書で、破綻した要因を以下のように整理して述べている。
1.健社長は研究一筋で、会社の経営・管理全般を全て弟の靖専務に任せ切りにして一切チェックをしていなかった。
2.身内だからという根拠のない信頼感で、弟とのコミュニケーションが無かった。
3.林原家代々の長男に絶対服従の主従関係の呪縛に弟は囚われ恐れていた。
4.林原は基礎研究を中心とする長い研究開発期間を要する研究・創造型企業で短期の採算を度外視する経営だった。
5.売上高280億円、借入金1,300億円という不均衡な経営は所有不動産などの信用をバックにしたものだった。
6.不動産や美術・骨董品などへの投資が無計画にどんぶり勘定でなされ、全容の把握すらしていなかった。
7.株主は100%林原家の所有で、取締役会さえ一度も開かれていなかった。
8.地元の優良同族企業として、林原グループは神格化されていた。
林原グループは、水飴会社からスタートして食品関連の酵素、糖製品マルトース、天然糖質トレハロースの量産から医薬品関連に展開し、抗ウィルスや制がん剤に利用されるインターフェロンの量産 に成功した。
世界でもユニークな研究開発力に定評のある優良会社として高い評価を受けていたが、同族経営の内情はあまりにも幼稚だった。
とくに地方の名門同族企業における経営陣の兄弟関係が、ここまで呪縛によるいびつな関係だということは驚きだ。金融機関のみならず、ビジネス界にいる多くの人々にとって誠に興味深い実例であり、教訓だ。
経営者はもちろん、多くのビジネスパーソンに一読を薦めたい。