書評ブログ

堤未果『㈱貧困大国アメリカ』(岩波新書)

堤未果氏は、ニューヨーク市立大学大学院で国際関係論学科の修士を取得したジャーナリスト。アムネスティ・インターナショナルや米国野村証券での勤務経験がある。

 

米国で勤務中に9・11同時多発テロに遭遇した経験も持っている。ジャーナリストとしては、米国の格差問題、貧困問題を採り上げたルポに定評がある。

 

とくに2008年に発表した 『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)は大きな反響を呼び、本書はそのシリーズの最新刊で、第3弾の完結編だ。新しい著書から順に、今日から3日間で紹介したい。

 

まず、本書 『㈱貧困大国アメリカ』 について、タイトルは1作目と殆ど同じだが、冒頭に 「ルポ」 でなく、「株式会社」 の略語である 「㈱」 が付いている。ここに筆者の強い問題意識を感じる。

 

米国の「1%の富裕層」「99%の貧困層」の間の格差問題は、今や国の存続さえ脅かす程に深刻化し、ウォールストリートのデモ行進に象徴されている。格差は開くばかりだ。

 

本書では、とくにモンサント社を初めとする巨大な食品コングロマリットウォルマートを代表とする流通小売り大手との強い結びつきによる貧困ビジネス(貧困者を食い物にするビジネス)に焦点を当てている。

 

食品コングロマリットは、大規模農場・加工工場と製薬会社・化学会社のM&Aによる巨大化が本質だ。農場は集約化され、強烈な農薬や除草剤、それに遺伝子組み換え食品で効率化した食ビジネスが描かれている。

 

やや一方的で批判的トーンに終始する書き方は気になるが、構造問題に鋭く切り込んでいる取材力と筆致の切れ味は見事だ。ジャーナリストとしての執念を感じる。

 

もともとジャーナリスト志望だった私は、著者の歯切れのいい文章は好きだが、もう少し反対側の意見を多く採り上げて、客観性を増す必要があると感じた。

 

本書のプロローグはとくによく書けていて、読めば誰でも本書に引き込まれるだろう。SNAP (昔の米国フードスタンプ)の実例は秀逸だ。その後の株式会社奴隷農場巨大な食品ピラミッドGM種子、縮小された公共サービス、政治やマスコミの買収も舌鋒鋭い分析と主張に圧倒される。

 

第1作 『ルポ 貧困大国アメリカ』、第2作 『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』 (いずれも岩波新書)に次ぐ、まさに 「完結編」 と言うに相応しい3作目となっている。

 

ビジネスに携わる人すべてに、ぜひ一読を薦めたい。