「世界はいま、知識社会化、グローバル化、リベラル化という三位一体の巨大な潮流のなかにある。この人類史的な出来事によって社会はとてつもなく複雑になり、人々は急激な変化に翻弄され、人生の攻略が難しくなっている」と述べている本があります。
本日紹介するのは、1959年生まれ、2002年国際金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビューし、数々の著書でベストセラーを連発している作家の橘玲さんが書いた、こちらの書籍です。
橘玲『裏道を行け~ディストピア世界をHACKする』(講談社現代新書)
この本は、コンピュータの世界で使われてきた「HACK」が大衆化し、いまでは脳から金融市場、社会まであらゆるものがハックの対象になっている状況を考えている書です。
本書は以下の6部構成から成っています。
1.ふつうの奴らの上を行け
2.恋愛をHACKせよー「モテ格差」という残酷な現実
3.金融市場をHACKせよー効率良く大金持ちになる「究極の方法」
4.脳をHACKせよーあなたも簡単に「依存症」になる
5.自分をHACKせよーテクノロジーが実現する「至高の自己啓発」
6.世界をHACKせよーどうしたら「残酷な現実」を生き抜けるか?
この本の冒頭で著者は、「ロングテールの世界(格差社会)では、漫然と常識に従い、ルールを守っているだけではショートヘッドから抜け出せない。だからこそ現代社会では、さまざまなハックが行われることになる。」と述べています。
本書の前半では、「ふつうの奴らの上を行け」および「恋愛をHACKせよーモテ格差という残酷な現実」について説明しています。主なポイントは以下の通り。
◆ 知識社会の高度化とは、仕事に要求される知的スペック(学歴・資格・知能など)が上がること
◆ リベラルな社会とは、差別がなくなるのだから、人生のすべてが「自己責任」の社会
◆ ロングテールの社会では、普通に生きていくだけでは転落する、ハックするしかない
◆ テクノロジーの進歩によって強力なハックが可能になった
◆ アメリカのPUA(ピックアップ・アーティスト)が恋愛工学として日本へ
◆ PUAがやっているのは、「女の脳のリバース・エンジニアリング)
◆ ナンパもマジックも「ルーティーンの集積」
◆ ナンパ師は工学的人間観(ソーシャル・ダイナミクス)では、女の脳に正しい入力をして望ましい出力を引き出すアルゴリズムとして記述できる
◆ 女性の関心を惹くためには、自分を相手のフレームに入れること
◆ NLPや催眠のテクニックを使った手法をルーティンに
◆「道徳的なモテ戦略」が必要な現代社会
◆ 理想の性愛を実現するための「富」、ハックの標的は女の脳から「金融市場」へ
この本の中盤では、「金融市場をHACKせよー効率良く大金持ちになる究極の方法」および「脳をHACKせよーあなたも簡単に依存症になる」について考察しています。主なポイントは次の通り。
◆ エッジ(強味・優位性)がある時だけ取引する
◆ ソロス、バフェットと並び20世紀最大の投資家となったエドワード・ソープ
◆ ブラックジャック、ルーレット、バカラを攻略したソープは金融市場へ
◆ ソープが設立したヘッジファンドPNPの驚異的なリターン
◆ バフェットとソープは子どもの頃から数学の天才で共通点が多い
◆ サイモンズのヘッジファンド・メダリオンの短期トレーディング
◆ ビッグデータから市場のアノマリー(人間の愚かさ)を見つけ投資戦略に応用
◆ メダリオンは複利で運用せず、仲間内で分配、その都度納税する仕組み
◆ ロビンフッドのビジネスは、フロントランニングをするHFT業者からの報酬で成り立つ
◆ 一般投資家が天才数学者に勝つには「手数料コストをできるだけ払わない」こと
◆ 日本は脳をハックするマシン・ギャンブリング天国
◆ 現代社会の依存症は脳の「快感回路」ですべて説明できる
◆ 確実な利益よりランダムな報酬
◆ 依存症者の困難は、脳が快感に対して耐性を持ち、幸福感が消えていくこと
◆ ギャンブラーが求めるゾーン
◆ ゾーンに入る4条件(①短期目標、②明確なルール、③即座のフィードバック、④制御と挑戦が同時に起こる感覚)
◆「自分の人生をコントロールできていない」という感覚が、コントロールできるゲームにハマる理由
◆ 脳の報酬系をハックするように設計されたSNS
◆ 行動依存の6要素(①目標、②フィードバック、③進歩の実感、④難易度のエスカレート、⑤クリフハンガー(緊張感)、⑥社会的相互作用(社会的結びつき)
◆ SNSやオンラインゲームに共通する6要素はフローに入る4要素とほぼ同一
◆ ビンジ(限度を超えて熱中)が欧米の若者では社会問題に
◆ 脳の報酬系を刺激する行動依存にはゾーンが伴い、つらい人生を忘れさせてくれるセラピーや向精神薬(精神安定剤)の作用がある
本書の後半では、「自分をHACKせよーテクノロジーが実現する至高の自己啓発」および「世界をHACKせよーどうしたら残酷な現実を生き抜けるか?」について、以下のポイントを説明しています。
◆ エスリンの高尚で神秘的な雰囲気エアハルトがヒューマン・ポテンシャル運動に
◆ ひとは無限の可能性をもっている
◆ 能力は教育や学習、訓練によって開発できる
◆ 自己啓発した主体によって、人生は成功と降伏に向けて進化する
◆ 成熟社会アメリカで台頭した「ミニマリズム」と「FIRE」
◆ 自由とは、会社、家庭、国家などに依存せずに自分の人生を選択できること
◆ FIREもまたミニマリズムの潮流に位置づけられる
◆ アメリカ中高年の白人労働者の平均寿命が2000年以降短くなった原因は「絶望死」
◆ ミニマリストやFIREの運動はフリーエージェント化したBOBOS(クリエイティブクラス)に行きつき、21世紀の人生設計の主流に
◆ エピクテトスのストア哲学は権内のコントロールできるもののみにフォーカス
◆ ゲーミフィケーション(ゲームに合わせて現実を再設計する)
◆ ピーター・シンガーの効果的な利他主義
◆ 短期間で巨額の富を築きミニマリストに近い生活をして寄附に励む新しい富裕層
◆ 現実とヴァーチャルの融合、富から評判へのパラダイム転換
この本の締めくくりとして著者は、「2002年に出版した著書『お金持ちになれる黄金の羽の拾い方』(幻冬舎文庫)が若者の間で売れている経験から、『ハックの大衆化』ともいうべき大きなトレンドが起きている」と述べています。
そしてその理由を「知識社会が高度化し、正攻法の人生設計が通用しなくなって『別の道』を探すしかなくなったから」と説明しています。
あなも本書を読んで、社会・制度のバグは簡単にはなくならないことを理解し、むやみに大きなリスクを取ることなく、経済合理的に考え行動することで「人生を攻略する(ハックする)」ことを目指してみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2767日目】