もはや顧客は、商品・サービスを通じて便益を受ける立場に飽き足らず、「何かをしてあげたい対象」として企業やブランドを位置づけている、と提唱している本があります。
本日紹介するのは、上智大学経済学部経済学科の新井範子教授と東京富士大学経営学部の山川悟教授が書いた、こちらの書籍です。
新井範子・山川悟『応援される会社 熱いファンがつく仕組みづくり』(光文社新書)
この本は、応援される会社について、どうしたらこんなに強く愛され、応援してもらえるようになるかを、さまざまな角度から、その動機・スタイルなどを考察し分析している書です。
本書は以下の5部構成から成っています。
1.なぜ今、「応援」を考えるのか
2.応援経済が進行している
3.応援されるブランドの類型と特徴
4.応援される会社「4つの必要条件」
5.応援を味方につける方法
この本の冒頭で著者は、「応援経済」とでも言うべき応援に着目する社会背景について、以下のような具体的な事例を通して紹介しています。
◆ 人気アイドルグループSMAPの解散前に起こった「花摘み」という『世界に一つだけの花』CD購入行動
◆ 好きなプロ野球チームのユニフォームを買って球場へ応援に行く
◆ 応援したい自治体への「ふるさと納税」
◆ 被災地のものを購入する「応援消費」
◆ AKB48の選抜総選挙の票を買うCD購入
◆ シェアリングエコノミーとしての民泊や「ウーバー」
◆ SNS投稿(ツイッター、インスタグラムなど)によるレストランや観光地のPR、「いいね!」やリツイート
ここで言う「応援」とは、「プラスの感情(好意)から、行動をすること」と定義しています。
そして注目すべきは、ファンの役割や応援の仕方が、インターネットの登場によって大きく異なってきたことです。
以前は、ファンと応援される側には深い溝があったが、現在はファンとアーティスト、そして企業の関係が異なってきたことを本書では指摘し、受け身だったファンの役割を次の5つだと説明しています。
1.スポンサー(AKB48総選挙でのCD購入)
2.価値の共創者(無印良品・マイスターバックスアイデア・SNS投稿)
3.ステークホルダー(准ビジネス関係・SNS投稿・アフィリエイト)
4.投資家・支援家(クラウドファンディング)
5.フィルター(まとめサイト、解説サイトなど情報整理)
こうした積極的で主体的な応援は、企画段階や制作の過程から関わり、応援者がアーティストや応援したいブランド・企業と一体化していけるようになったことが特徴です。
それが可能になったのは、個人が誰でも情報発信ができるインターネット社会という、イノベーションの効果でしょう。それを著者は、「応援経済」と呼んでいます。
具体的には、SNSによるつながりと市場形成であり、「モノからコト」という流れ、すなわち、興味がある対象を「所有」することから「経験」することに、消費者の関心が移っています。
逆にモノを捨てる「断舎離」や、最低限のモノした持たないミニマリストというライフスタイルが注目され、モノを買うことよりも、楽しい経験や思い出をつくることへ関心が移っています。
そこからさらに、ブランドコミュニティサイトや、映画『アナと雪の女王』を上映する映画館で観客が一緒に歌い、コスプレをするというイベントなど、「参加の文化」が広がっている、と著者は述べています。
こうした「参加」という文化の広がりと、ウェブによってファン同士がつながりやすくなったことが、「応援経済」が急速に進展している背景だと、この本では解説しています。
さらに、マーケティングとしての「応援」について、「顧客と長い関係を築いていく関係性」を作ろう、という考え方を本書では提唱しています。
いわゆる、「リレーションシップマーケティング」ですが、それが台頭してきた背景は以下の2つだと著者は解説しています。
◆ 顧客との関係を維持した方が、ROI(費用対効果)が高い
◆ 1対1の関係性をつくるのに必要な顧客の購入履歴、コミュニケーション履歴、行動把握商品情報を蓄積するためのデータベース技術や分析ツールの進化(ビッグデータ活用)
そこでのポイントは、「顧客生涯価値」(=ライフタイムバリュー)という、「顧客が生涯の間、どのくらいの利益をもたらしてくれるか」という指標を用いて、顧客との関係を考え、強化していくことです。
さらに、応援する・されるという関係を構築できれば、SNSに写真をアップしたり、口コミサイトに良いコメントを書き込んだりして、推薦者や宣伝者となってくれます。
つまり、「満足顧客」から「熱狂顧客」、さらに「応援顧客」へとなってもらうことで、単なる「顧客」を超えた「応援者」として、「ロイヤリティが高い優良顧客」以上の価値を企業にもたらしてくれます。
こうした応援者(=ファン)は、どのように作り出されるのでしょうか?
この本では、応援は「経験」だと言います。マーケティングでは、「カスタマーエクスペリエンス」という言葉があり、「顧客が体験する様々な経験を価値あるものにする」ために、顧客に良い経験を提供し、リピート率や購入を増やそうという考え方です。
それに対して、応援は「消費者が経験のつくり手」となります。つまり、有名人を使う「インフルエンサーマーケティング」ではなく、一般のファンを使う「アンバサダーマーケティング」に近い考え方です。
消費者自身に、時間や労力をかけてもらい、お金と時間と手間をかけてまで応援してもらうことで、その投資が失敗にならないように楽しい経験とし、「これからも応援していこう」という強い関係性が作れる、ということです。
本書の中盤以降では、「応援」の分類として、以下の7つを挙げています。
1.声援
2.経済的な支援・購入
3.ボランティア
4.同志による交流
5.クラウドファンディング
6.追体験・関連消費
7.二次制作・アレンジレシピ・ユーザーイノベーションなどの市場での創作
また、消費者の応援行動が生み出す価値として、次の7つを紹介しています。
1.レピュレーションをつくる
2.おすすめ(リコメンデーション)
3.応援消費文化、ファンダムの生成
4.ブランドの育成と保護
5.ファンコミュニティによるCRM、サポート
6.イノベーションの創発
7.利他的行動の促進
続いて、応援されるブランドの類型と特徴として、著者は次の5類型を挙げています。
1.崇拝型応援タイプ~時代の先鋒として道を切り拓く存在~
2.愛着型応援タイプ~手に届きそうな距離感を保つ~
3.同志型応援タイプ~同じ目標の下、顧客と共に闘う~
4.共歓型応援タイプ~自らが楽しむ姿勢を貫く~
5.賛助型応援タイプ~可能性と脆弱さが魅力的なブランド~
この本の終盤には、応援される会社の「4つの必要条件」が以下の通り、解説されています。
◆ 社会課題ドメイン(領域)の定義
◆ 価値競争への転換
◆ 内部(インターナル)ブランディングの優先
◆ ブランドコミュニティとの共栄
最後に著者は、応援されるマインドとして、次の8つを挙げています。
◆ 「人」として認められること
◆ 人として、話をすること
◆ 物語で共感を生み出す
◆ 応援しやすくする(応援アフォーダンス)
◆ 応援を返すこと
◆ 勝手に終わりにしない
◆ 「私の〇〇」と思わせる
◆ 時間軸で捉える
インターネットで個人が情報発信できる時代には、応援されるファンをつくる仕組みがあるということです。
あなたも本書を読んで、応援される会社になるために、熱いファンがつく仕組みづくりを考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を