書評ブログ

『ノマド 漂流する高齢労働者たち』

「まさか自分が放浪生活をすることになるとは思いもしなかった人々が、次々と路上に出ているのだ。昔ながらの家やアパートに住むことを諦めて、『車上住宅』に移り住んだ、現代のノマドである。」と述べて、リーマンショック後のアメリカで、貯蓄をすべて失い、路上に出て仕事を求めて全米を漂流しながら、トラベルトレーラー、RV(キャンピングカー)、トラックなどを住宅にして車上で生活する高齢労働者の実態を描いた本があります。

 

 

本日紹介するのは、サブカルチャーと経済問題を中心に取材・執筆活動を行い、コロンビア大学ジャーナリズム大学院で教鞭をとるジャーナリストジェシカ・ブルーダーが書き、鈴木素子さん(埼玉大学教養学部卒)が翻訳した、こちらの書籍です。

 

 

ジェシカ・ブルーダー『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(春秋社)

 

 

この本は、リタイア後には体をいたわりつつ心安らかに過ごしたい、エネルギッシュに自由を謳歌したいなどの夢を抱きながら、懸命に働く現役時代を過ごしてきた「高齢期」の人たちが、突然ルールが変わって、リタイアするどころか、若い頃より単調で肉体的にきつい、最低限の報酬しか得られない仕事に長時間従事しながら、車上生活で全米を漂流する「ノマド」と呼ばれる高齢労働者に焦点を当てて、その生活実態を3年間にわたる密着取材で描き出している書です。

 

 

 

本書は以下の12部構成から成っています。

 

 

1.スクイーズ・イン

 

2.八方塞がり

 

3.アメリカを生きのびる

 

4.脱出計画

 

 

 

5.アマゾン・タウン

 

6.クォーツサイト

 

7.ラバートランプ集会

 

8.ヘイレン

 

 

 

9.ピーツフルな体験-ブラック覇権潜入レポート

 

10.ホはホームレスのホ

 

11.RTRへの帰郷

 

12.椰子の殻に入るタコ

 

 

 

この本の冒頭で著者は、リーマンショックによる格差拡大で、賃金の上昇率と住居費の上昇率があまりに乖離した結果、伝統的な「ふつうの」家をあきらめることで、賃貸料や住宅ローンのくびきを壊し、キャンピングカーやトレーラーハウスに移り住み、その時々に気候の良い場所から場所へと移動しながら、季節労働でガソリン代を稼ぐ「ノマド」と呼ばれる高齢労働者の実例として、アメリカ西部を転々とするリンダ・メイ(64歳)への取材について、その経緯と詳細を記しています。

 

 

 

彼女のような高齢労働者は全米にかなりの人数がいるという現実があり、その実態は以下のような特徴を持っています。

 

 

◆ 短期の雇用を求めてアメリカじゅうを車で移動する、季節労働者で、「ワーキャンパー」と呼ばれる

 

◆ 自分たちを「リタイア組」と呼びつつも、「旅人」「ノマド」「ラバートランプ(=車に乗った放浪者)」「ジプシー」「アメリカ難民」「ユウフクナホームレス」「ハウスレス」「現代版フルーツ・トランプ(=農場を転々としつつ期間限定の過酷な収穫作業をした1930年代の季節労働者)」とも呼ばれる

 

◆ バーモントではラズベリー摘み、ワシントンではリンゴ収穫、ケンタッキーではブルーベリー摘み、ナスカー・レースでチケットもぎり、ツアー客案内、テキサスの油田で警備、フェニックスのオープン戦でハンバーガー売りなどの季節労働

 

◆ 天然ガスパイプラインのガスもれ検査員、アミューズメントパークのアトラクション・スタッフ、アマゾンの倉庫労働、キャンプ場の管理スタッフ(RVパークに駐車して生活)

 

 

 

◆ 高・中低所得層から、高齢アメリカ人が貧困層に移行(退職後の保障が無に帰すという事態)

 

◆ 公的年金が少なすぎるという、どうしようもない問題(高齢者に休息はない)

 

◆「自由になる一番の方法は世間でホームレスと呼ばれる存在になることだ」という『Cheap RV Living.com』(安上りRV生活)というサイトが提唱するライフスタイル(一番大きな出費である住居費を「車上住宅」で削減)

 

◆「車上生活社の会」「愛車に住もう」掲示板

 

 

 

本書の中盤では、ノマドが集まる次のようなアメリカの都市および取材方法紹介レポートを掲載しています。

 

 

◆ アマゾン・タウン(ネバダ州)

 

◆ クォーツサイト(アリゾナ州)

 

◆ ラヴバートランプ集会(RTR)

 

◆ キャンピングカー「ヘイレン」で生活しながら記事を執筆

 

◆ ブラック派遣の潜入レポート

 

 

 

この本の後半では、意外にも悲壮感はなく、前向きな「ノマド」、すなわちワーキャンパーたちの生活や今後の夢について記しています。

 

 

 

例えば、「アースシップ」という自然と共生する生活や、安眠できる場所を求めて移動を続けるプライドソローの『森の生活』にも通じる豊かな精神の泉などです。

 

 

 

あなたも本書を読んで、「ノマド」の生き方や、アメリカと同様の状況が日本の高齢者にも起こり得るというリアリティを考察してみませんか。

 

 

 

2020年11月27日、YouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』【第169回】漂流するアメリカ高齢者たち「ノマド」にて紹介しています。

 

 

 

 

 

毎日1冊、ビジネス書の紹介・活用法を配信しているYouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』の「紹介動画」はこちらです。ぜひ、チャンネル登録をしてみてください。

 

 

 

 

では、今日もハッピーな1日を!【2415日目】