「そして誰も何も言えなくなった」――そんな問題意識から始まる、一冊の挑戦的なメディア論があります。
本日紹介するのは、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、サセックス大学大学院でメディア研究を修了し、法政大学社会学部教授などを経て、現在は慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授として教鞭を執る津田正太郎(つだ・しょうたろう)さんが書いた、こちらの書籍です。
津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(ちくまプリマー新書)
この本は、SNSやネット空間で日々繰り返される論争や炎上、そして分断の背景にある社会的・構造的な問題を、「自らも炎上を経験した著者」が実体験を交えながら、冷静かつ誠実に紐解いていくメディア社会論の入門書です。
本書は以下の6部構成から成っています。
1.「表現の自由」をめぐる闘争
2.ソーシャルメディアの曖昧さと「権力」
3.エコーチェンバーの崩壊と拡大する被害者意識
4.「不寛容な寛容社会」とマスメディア批判
5.二つの沈黙、二つの分断
6.終章──単純さと複雑さのせめぎ合い
この本の冒頭で著者は、「アニメの感想を書いただけで炎上した」という自身の体験をもとに、「いまや誰もが発言をためらい、ネットの空気に押し黙る時代になった」と語っています。
本書の前半では、「表現の自由」とは何か、なぜネット上の対話が困難なのか、という問いを起点に、ソーシャルメディアの構造的な曖昧さと、それに付随する “力関係” が浮き彫りにされます。主なポイントは以下の通りです。
◆「言葉の意図」と「受け手の解釈」のズレが炎上を招く
◆SNSの「公共性」は一枚岩ではない
◆キャンセルカルチャーが言論空間を狭めている
◆“見えない権力”がネット空間を左右する
◆「黙っておこう」という沈黙が、議論をますます不毛にする
本書の中盤では、エコーチェンバー現象、カテゴリー思考、怒りの連鎖など、ネット上で起きる “対話の不可能性” がなぜ加速するのかについて、多角的に考察されます。主なポイントは次の通りです。
◆共感が共鳴を生み、怒りが増幅していく構造
◆“敵/味方”の単純な二元論が対話を遮断する
◆“公共”の名のもとに他者を排除する動きが加速
◆“寛容”が“攻撃”に変わる逆説──不寛容な寛容社会
◆「どうせわかってもらえない」という無力感が拡がる
さらに後半では、ネットだけでなく社会全体における分断や沈黙、フェイクニュースの拡散、陰謀論の蔓延といった、いまの日本社会が抱える根本的な問題にも踏み込んでいきます。主なポイントは以下の通りです。
◆情報空間の「単純化」が人間関係を壊す
◆異なる視点を受け止める“寛容さ”が試されている
◆無関心と無力感が分断を深める最大の原因
◆沈黙は、時として「合意」と誤解される
◆「複雑さ」をどう伝えるかが、メディアと社会の課題
この本の締めくくりとして、著者は「結論を急がず、“他者の目に映る世界”を見つめてみること。それが、今の分断社会を少しずつ変えていく第一歩になる」と語っています。
ネットに疲れてしまった人、日々の論争に違和感を覚えている人にこそ読んでほしい、“言葉と対話” の再起を願う社会論の名著です。
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では、今日もハッピーな1日を!【3803日目】