「歴史上、ある世代が人生の再設計を政府から要請されたことなど一度もない。その世代に集中して支援する必要性を認めたことは良いが、再設計すべきはこれまでの政府に方針ではなかっただろうか。」と述べている本があります。
本日紹介するのは、1982年生まれ、聖学院大学心理福祉学部客員准教授で、NPO法人ほっとプラス理事、反貧困ネットワーク埼玉代表の藤田孝典さんが書いた、こちらの書籍です。
藤田孝典『棄民世代 政府に見捨てられた氷河期世代が日本を滅ぼす』(SB新書)
この本は、就職氷河期世代と呼ばれていた人々を中心として、政府や企業などから雇用も社会保障も用意されず、そのため生涯にわたり、低所得、生活困窮、単身化、ひきこもりなどの社会問題を抱えさせられた「棄民世代」がどれほど過酷な環境で働き暮らしているのかを明らかにし、その未来、将来像を取り上げ、生きていく選択肢を増やす提言をしている書です。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.「棄民世代」とは何か
2.データから見えてくる就職氷河期世代の過去と現在
3.棄民世代はこれからどうなる
4.「就職氷河期世代支援プログラム」を批判する
5.棄民世代を生み出したのは誰か
6.棄民世代が日本を滅ぼす
7.提言・彼らを本当の棄民にさせないために
この本の冒頭で著者は、2015年に発表した『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)に描かれた孤独な境涯に生きる高齢者たちの現実を上回る厳しさを、15~20年後の「棄民世代」は迎えることになるだろう、と予測しています。
そして、現在における日本の高齢者の貧困率(=相対的貧困率)は19.4%と諸外国と比べて高いにも関わらず、氷河期世代が高齢者になる頃には、この数字が30.0%にまで上昇するだろうと予想されます。
本書の前半では、データから見える就職氷河期世代の過去と現在および、今後の将来展望を分析・展望しています。主なポイントは以下の通り。
◆ 就職氷河期世代は、1971年~1984年生まれの計2,310万人(団塊ジュニア+ポスト団塊ジュニア)で人口の多い世代
◆ 彼らの就職時期(大卒22歳)に重なる、1993年~2005年は有効求人倍率が1を割り込む就職氷河期に
◆ 厳しい受験競争・就職競争で、正社員としての就職ができず、毎年8~12万人が就職できずに失業(失業率11.6%まで上昇)
◆ 大卒、高卒ともに1993年~2004年にかけて、フリーターおよび派遣などの非正規雇用が急増
◆ ニート、ひきこもりが前の世代に比べ大きく増加
◆「年収300万円の壁」と言われる通り、未婚率も大幅に増加、世帯を持てない
◆ ギグ・エコノミー化により加速する雇用不安定化
◆ 親の介護問題(8050問題、親子共倒れ)
◆ 生活保護急増のシミュレーション
この本の中盤では、安倍内閣が打ち出した「就職氷河期世代支援プログラム」について、遅きに失したという批判と、そもそも棄民世代を生み出した原因について考察しています。ポイントは以下の通り。
◆「切れ目のない支援」と「より丁寧な寄り添い支援」の実効性に疑問
◆ 助成金モデルで企業に依存することの限界と必要な教育給付
◆ 失業者への手当が弱すぎる日本
◆「第3次ベビーブーム」が起きなかった原因と無策
本書の後半では、棄民世代による諦めと凶悪犯罪など構造的な問題について、分析しています。とくに、「登戸通り魔事件」、「元キャリア官僚による練馬区長男殺害事件」、「京都アニメーション放火事件」など2019年に相次いで起きた事件を取り上げています。
これら凶悪事件が連続して起きた際に、ネット上で話題になった「無敵の人」という言葉について解説しています。
これは、「守るべきもの」を最初から何ひとつ持たず、自分の命さえ大して価値があるとはみなしていない人に犯罪を思いとどまらせることは難しい、という意味で「無敵の人」と呼ぶ、ネットスラングです。
こうした「無敵の人」が犯罪に向かう心情をリアルに表現した本として、『黒子のバスケ』脅迫事件の犯人である元・派遣会社社員の渡邊博史が書いた次の本を引用・紹介しています。
引用の文章を読むだけで、怖くなるような内容ですが、棄民世代をこのまま放っておいて、高齢化する中で貧困化が進むと、こうした犯罪が頻発するリスクがある、ということです。
あなたも本書を読んで、就職氷河期世代=棄民世代について、改めて考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2443日目】