「働き続けるしかない高齢者が増えている」——その背景には何があるのか。
“やりがい” と “搾取” の間で揺れるシニアワーカーの実像に鋭く迫るノンフィクションがあります。
本日紹介するのは、1975年生まれ。大学卒業後、NHK高知放送局・NHK首都圏放送センターで有期雇用のキャスター/ディレクターとしてローカル番組制作に従事、結婚退職後は、自殺予防団体の電話相談ボランティアを経験し、育児のかたわらウェブライターとして借金苦・終活・貧困問題などの取材・執筆を継続。
自らも生涯非正規・ギグワーカーとして多様な働き方を経験してきたジャーナリスト、若月澪子さんが書いた、こちらの書籍です。
若月澪子『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新書)
この本は、年金では暮らせず働き続ける高齢者が急増する現実と、その背後にある「終わらない子育て」「家族への過重負担」「制度の空洞化」「地域の希薄化」など、現代日本 “見えにくい貧困” と “孤立の構造” を浮き彫りにする渾身のルポルタージュです。
本書は以下の6部構成から成っています。
1.終わらない「子育て」
2.「貯蓄ゼロ」の実態
3.2000万円では足りない
4.シニア・ケアラー
5.プライドのゆくえ
6.孤独のトンネルを抜けて
本書の前半では、“子どもの自立困難” が親世代の老後まで直撃している現実が描かれます。ただの貧困問題としてではなく、親子双方が追い詰められていく構造が丁寧に描写されています。主なポイントは以下の通りです。
◆ 「終わらない子育て」が老後の労働を強制する
◆ 非正規・低賃金の連鎖が、親子二世代に重くのしかかる
◆ シニアの働き方は「生活費のため」という理由が大半
◆ 年金の減少が、働き続けることを“選択”ではなく “義務” にしている
◆ 高齢者ほど「助けを求めにくい」社会構造が存在する
この本の中盤では、「貯蓄ゼロ」「不足する老後資金」「ケアを担うシニア」など、高齢層の多重負担が明らかになります。“自己責任論” がいかに実態にそぐわないかを、21人の密着取材が具体的に示しています。主なポイントは次の通り。
◆ 貯蓄ゼロ・年金少額でも働かざるを得ないシニアの現実
◆ 老後2000万円問題より深刻な「生活費が毎月足りない」現実
◆ 親の介護と子の生活支援に挟まれるシニア・ケアラーの疲弊
◆ 正社員を前提にした制度設計が高齢者の生活を追い込む
◆ 年金・医療・介護制度の隙間に落ちる人が増えている
本書の後半では、高齢者の “働く誇り” と、“搾取されやすい弱さ” が同時に描かれます。
さらに、孤立のトンネルをどう抜け、どのように支え合える社会をつくるか——という提言へつながっていきます。主なポイントは以下の通りです。
◆ シニアが抱える「仕事の誇り」と「生活の苦しさ」の二重構造
◆ “安く、都合よく使われる”労働構造が高齢者に集中している
◆ 孤立したシニアは相談先にもつながりにくい
◆ 地域・制度・家族の支えが弱まり「孤立の再生産」が進む
◆ 解決策は“個人努力”ではなく“社会の再設計”にある
定年延長、非正規拡大、低年金、孤立社会——。現代の高齢者は、社会変化の “最後の受け皿” として過重な負担を背負い続けています。
本書は、ただシニアの過酷さを描くだけでなく、「働く高齢者をどう支える社会をつくるか」という未来の論点を、当事者の声から浮かび上がらせます。
これから定年を迎える世代にとっても、政策を考える立場の人にとっても、そして今働いているすべての人にとっても、避けて通れない “日本の今” を可視化する重要な一冊で、お薦めです。
ビジネス書の紹介・活用法を配信しているYouTubeチャンネル『大杉潤のYouTubeビジネススクール』でもレビュー動画を公開しています。ぜひご覧になり、チャンネル登録をお願いします!
https://www.youtube.com/channel/UCIwJA0CZFgYK1BXrJ7fuKMQ
では、今日もハッピーな1日を!【3930日目】








