書評ブログ

『人口戦略法案 人口減少を止める方策はあるのか』

課題先進国と言われる日本の「人口減少問題」の現状と解決策を探る小説スタイルの新しい解説書が刊行されました。

 

 

本日紹介するのは、1954年山口県生まれ、東京大学法学部を卒業し、厚生省(現・厚生労働省)入省、同省高齢者介護対策本部次長、内閣府政策統括官、内閣総理大臣秘書官、厚生労働省社会・援護局長、内閣官房地方創生総括官、駐リトアニア大使を歴任した山崎史郎さんが書いた、こちらの書籍です。

 

 

山崎史郎『人口戦略法案 人口減少を止める方策はあるのか 』(日本経済新聞出版)

 

 

この本は、コロナ禍で出生数の急減が進み、「小国」になっていく危機に瀕している日本の人口問題の現状と解説策を探るために、すべて現実の公開資料を使いながら、フィクションの形で「一億人国家シナリオ」を目指す「人口戦略」を提示・解説している書です。

 

 

本書は以下の8部構成から成っています。

 

1.衝撃の海外レポート

2.一億人国家シナリオの行方

3.高出生率国と低出生率国の違い

4.出生率向上のための「3本柱」

 

5.「地方創生」と「移民政策」

6.議論百出の人口戦略法案

7.波乱の「人口戦略国会」

8.「始まり」の終わりか、「終わり」の始まりか-その後の動き

 

 

この本の冒頭で著者は、主な登場人物を紹介しています。「特定のモデルがいるわけではない」としていますが、きわめて現実に近い人物設定になっています。総理大臣をはじめとする政治家、内閣府、厚生労働省の官僚を中心に、人口学者、社会保障研究者、経済学者、国際政治専門家、企業経営者、メディア関係者、地方の有識者などです。

 

 

本書の前半では、「一億人国家シナリオの行方」および高出生率国と低出生率国の違い」について記載しています。主なポイントは以下の通りです。

 

◆ 人口減少の5つの不都合は、➀人口減少のスピードは年々高まる、②人口減少は地域格差がある、③人口減少を止めるには時間がかかる、④出生率の回復が遅れるほど将来人口は低下する、⑤出生率向上に即効薬はない

◆ 人口減少社会とは「超高齢社会」

◆ 人口ボーナスから人口オーナスへ、経済への悪影響

◆ 世界の歴史は混交問題で動く

◆ 人口規模が経済力を決める

 

◆ 出産の先送り(晩婚化)と生み戻し(キャッチアップ)ではなかった

◆ キャッチアップがあったのはスウェーデン、フランス、無かったのはイタリア、日本

◆ 日本は晩婚化から「非婚化」へ、晩産化から「少産化・非晩化」へ

◆ 結婚をめぐる「年収300万円の壁」

◆ 労働政策と家族政策の融合

 

 

この本の中盤では、「出生率向上のための3本柱」および地方創生と「移民政策」について考察しています。主なポイントは次の通り。

 

◆「こども保険」の骨格は、社会保険方式による子ども支援基金と子ども保険給付

◆「こども保険」の基本理念は、➀子どもの養育支援、②普遍的な制度、③男女協働、④制度間連携、⑤社会全体の支え合い

◆ 4種類の両親手当は、➀出産手当・出産一時金、②育休給付金、③時短相当分の手当、④病児の親への手当

◆ 児童手当は、所得制限なし、第2子、第3子以降に厚い支給

◆「子育て」に対する社会的支援は「高齢者介護」に対する社会的支援とおなじで必要

 

◆ 社会保障財源の「社会保険方式」と「税(公費)方式」

◆ プレコンセプションケア(不妊治療・ライフプラン)と結婚支援

◆ 東京一極集中と人口移動の「三層構造」

◆ 地方大学の強化を柱に、テレワーク推進と若者の地方移住による地方創生

◆ 難問の「移民政策」 

 

 

本書の後半では、「議論百出の人口戦略法案」波乱の『人口戦略国会』」および「始まりの終わりか、終わりの始まりか-その後の動き」について紹介・解説しています。主なポイントは以下の通り。

 

◆「組織」と「制度・予算」は車の両輪

◆ 人口戦略統合本部と人口戦略研究所

◆ 目標とする人口・出生率・出生数

◆ コーホート出生率と期間出生率

◆「世代アプローチ」の意義と「東京圏」の問題

 

◆ 人口戦略の5本柱(①目標設定と5か年計画、②子ども保険の導入、③不妊治療・ライフプランと結婚支援、④若者に焦点を当てた地方創生、⑤人口戦略推進体制の整備)

◆ 人口戦略の取り組みは、子ども世代に夢や希望を与える「未来への投資」

◆ 二段ロケット方式で法案提出

◆ なぜ「一億人国家」でなければならないのか(人口の「若返り」の9000万人国家か、年60万人人口減が90年間も続く6000万人の超高齢国家かの選択)

◆ 国民全体の議論が必要な「未来の日本国家像」

 

 

この本の締めくくりとして著者は、「この本を小説形式にしたのは、人口減少問題は様々な要素が複雑に絡み合うため、論文形式の記述では、趣旨が十分に伝わらないのではないか、と考えたからです。」と述べています。

 

 

人口減少問題は、若年世代の結婚、子育てだけでなく、社会経済の仕組みも深く関係し、さらには国家の存亡にも影響を与えかねない重大な問題であるため、多次元の空間認識が求められるテーマである、と著者は言います。

 

 

人口をめぐる歴史や現状、将来推計、結婚・出産・子育ての問題状況、日本や諸外国の政策・制度の動向など、本書の物語の素材となっているものは、すべて公開された資料や文献に基づく事実で、人口減少問題の深刻かつ多面的な問題を構造的に理解するのに最適です。

 

 

人口減少問題は、今後100年にわたって続く、避けることのできない、日本国民全体にかかわる最も重大な問題であり、この本の一読を強くお薦めします。

 

 

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では、今日もハッピーな1日を!【2664日目】