「“言った者勝ち”になっていないか。声が大きい人の意見が、民意だとされていないか」――そんな鋭い問題提起から始まる、現代政治を読み解く一冊があります。
本日紹介するのは、朝日新聞の政治部、デジタル部、選挙報道チームなどが総力を結集し、日本の民意と政治の変容を独自の取材で追いかけた、こちらのルポルタージュです。
朝日新聞取材班『「言った者勝ち」社会 ポピュリズムとSNS民意に政治はどう向き合うか』(朝日新書)
本書は、派閥や中間団体の影響力が急速に薄れた現代日本において、SNSや動画サイトが “民意” の形成に与えるインパクトを明らかにし、政治がそれにどう向き合っているかを深く掘り下げるものです。
著者たちは、「SNSで可視化された“砂の民意”が、選挙結果を左右し、ポピュリズムを加速させている」と警鐘を鳴らしながら、世論調査や政党戦略の舞台裏にまで踏み込んだ取材を通して、実態を浮き彫りにします。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.民意とは何か
2.SNSと動画サイト
3.世論調査と情勢調査
4.中間団体の衰退とポピュリズム
5.岩盤支持層と分断的手法
6.派閥を解消した自民党
7.「砂の民意」のもとで進む多党化
この本の冒頭で著者は、「“民意”という言葉は、時に選挙結果の正当化や、世論調査の恣意的な利用にも使われる」と指摘し、「SNSの声が民意と見なされる構図」に対する強い危機感を表明しています。
本書の前半では、「民意」とは何か、その定義や扱われ方がどのように変遷してきたかが詳細に描かれます。主なポイントは以下の通りです。
◆ 中曽根、小泉、安倍各政権で使われた“民意”の構図を分析
◆ SNSの拡散力が「声の大きさ」を民意と錯覚させる
◆ 動画配信やライブ配信が政治運動の武器になった
◆ 新興政党(国民民主党、参政党、日本保守党)の台頭とSNS戦略
◆ “メディア対策”が、政党の生存戦略に組み込まれている現実
中盤では、民意の “測定ツール” としての世論調査と、政党の情勢調査の舞台裏が語られます。主なポイントは次の通りです。
◆ 「情勢調査」は戦略兵器として利用される
◆ メディアと政党が数字で“物語”を作る危うさ
◆ 中間団体の衰退が“個の民意”に依存する政治へと変化
◆ 「敵・味方」を明確にする分断型手法が票を集める仕組み
◆ ポピュリズムが可視化された社会で政治のバランスが崩れる
本書の後半では、“派閥なき自民党” と “多党化する野党” の構図、そして「砂の民意」というキーワードが象徴する時代の本質が浮き彫りになります。主なポイントは以下の通りです。
◆ 派閥なき自民党が内閣人事と公募で党内権力を構築
◆ SNS民意は流動的で、選挙結果が読みづらくなる
◆ 政治家が常に「顔を売り続ける時代」になった
◆ 支持基盤なき政党が乱立する“多党化”のリスク
◆ 民主主義を維持するには、“耳の痛い声”にこそ耳を傾けるべき
この本の締めくくりとして著者たちは、「可視化された“声”の背後にある多様な現実に向き合い、政治の責任ある意思決定を問うことが、いま求められている」と訴え、「民意という言葉を安易に振りかざさず、熟議と対話の回路を開いていくしかない」と力強いメッセージを発信しています。
本書は、SNSとポピュリズムの時代を生きる私たちが、“誰の声を民意とするか” を問い直すきっかけとなる、ジャーナリズムの真骨頂とも言える一冊です。
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