世の中にあふれる “ 根拠のない通説 ” にだまされなくなるための、「データから真実を見抜く思考法」を解説してくれる本が刊行されました。
本日紹介するのは、慶應義塾大学総合政策学部准教授で、教育経済学を専門とする中室牧子さんと、ハーバード公衆衛生大学院リサーチアソシエイトの津川友介さんの共著による、こちらの新刊書籍です。
中室牧子・津川友介『「原因と結果」の経済学-データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)
この本は、教育経済学者の中室牧子さんと、医師で医療政策学者の津川友介さんが、因果関係と相関関係の違いを分かりやすく説明しながら、「因果推論」という分析手法を、具体的事例を挙げて解説している書です。
本書は以下の8部構成から成っています。
1.根拠のない通説にだまされないために-「因果推論」の根底にある考え方
2.メタボ健診を受けていれば長生きできるのか-因果推論の理想形「ランダム化比較試験」
3.男性医師は女性医師より優れているのか-たまたま起きた実験のような状況を利用する「自然実験」
4.認可保育所を増やせば母親は就業するのか-「トレンド」を取り除く「差の差分析」
5.テレビを見せると子どもの学力は下がるのか-第3の変数を利用する「操作変数法」
6.勉強ができる友人と付き合うと学力は上がるのか-「ジャンプ」に注目する「回帰不連続デザイン」
7.偏差値の高い大学に行けば収入は上がるのか-似た者同士の組み合わせを作る「マッチング法」
8.ありもののデータを分析しやすい「回帰分析」
この本は、世の中で定説のように言われている、以下の事例が本当なのかどうかという「問い」を投げかけるところから書き出されています。
◆ メタボ健診を受けていれば長生きできるのか
◆ テレビを見ていると子どもの学力は下がるのか
◆ 偏差値の高い大学へ行けば収入は上がるのか
私たちは、何となく上記のことがらを、「通説」として漠然と信じているのではないでしょうか。実は、経済学の有力な研究は、これらをすべて否定しています。
多くの人がこれらの「問い」にイエスと答えてしまうのは、「因果関係」と「相関関係」を混同しているからだ、と著者は言います。
経済学では、「2つのことがらのうち、どちらかが原因で、どちらかが結果である」状態を、因果関係があると言います。
また、「2つのことがらに関係があるものの、その2つは原因と結果の関係にないもの」のことを相関関係がある、と言うのです。
本書では、「体力がある」ことと、「学力が高い」こととを、因果関係なのか相関関係なのかを分析して説明しています。ここから得られる非常に重要な教訓として、因果関係と相関関係を混同してしまうと、誤った判断のもとになってしまう、としています。
そして、最近の経済学の知見として、因果関係なのか相関関係なのかを正しく見分けるための方法論である「因果推論」を、その根底にある考え方から、理想形の試験法や応用実験などまで、幅広く事例を用いて解説しています。
その一つひとつをここでは敢えて解説しませんが、以下に重要なキーワードを紹介しておきますので、興味ある方はぜひ、本書を手に取ってお読みください。
◆ ランダム化比較試験
◆ 交絡因子
◆ 逆の因果関係
◆ 反事実
◆ 因果効果
◆ メタアナリシス
◆ 自然実験
◆ 回帰分析
また、本書の最後には、「因果推論の5ステップ」が復習としてまとめられています。次の「5ステップ」です。
1.「原因」は何か
2.「結果」は何か
3.3つのチェックポイント(*)を確認しよう
4.反事実を作り出そう
5.比較可能になるよう調整しよう
上記の3でいう「3つのチェックポイント(*)」とは、①まったくの偶然ではないか、②交絡因子が存在しないか、③逆の因果関係はないか、という3つです。
交絡因子とは、原因と結果の両方に影響を与える「第3の変数」のことです。
この本の著者である中室牧子さんは、専門の教育経済学の知見を紹介した『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トェンティワン)での主張が大きな反響を呼び起こしました。
また本書は、『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)によって、統計学の面白さや有用性を世に広めた西内啓さんも推薦しています。
本書には、19世紀を代表するアメリカの思想家・作家であるラルフ・エマーソンの次の言葉が冒頭に紹介されており、1世紀以上も前に語られた、この言葉の的確さに、改めて驚かされます。
「軽薄な人間は運勢を信じ、強者は因果関係を信じる。」
この本で分かりやすく解説する「因果推論」は、データが氾濫する現代の情報社会における必須の教養と言えるでしょう。ぜひ、本書を一読することを心からお薦めします。
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では、今日もハッピーな1日を