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渡邊正裕『10年後に食える仕事、食えない仕事』(東洋経済新報社)

渡邊正裕氏は労働問題のスペシャリストで、若者の働き方についての論客だ。本書は、もともと週刊東洋経済で特集した同名タイトルの記事が大きな反響を呼び、単行本の出版につながった。

 

数ある経済誌の、毎週発行される特集記事の中で、ここまで反響を呼ぶ書き手は珍しい。それだけ現代は、若者が職業選択や働き方に悩み、自分の人生の進路を決められないということだろう。

 

渡邊氏は本書の中で、今後10年を展望した時に、我々を取り巻く仕事を2つの切り口、4つのマトリックスで分類して議論している。まずは、グローバル化の流れの中で、専門知識や知的能力で勝負する分野と、ITによる効率化や人件費コストで勝負する単純作業の分野だ。

 

いずれにしてもフラット化した世界の中で、我々は新興国や東側経済の安い労働力と比較され、世界70億人との競争にさらされる。血みどろの戦いを強いられ、とくに単純作業の領域では、「重力の世界」となって、収入は限りなく新興国の低賃金に収斂していく。

 

逆に、日本人メリットや日本語の壁がある分野の仕事は、他国の労働者との直接的な競争にさらされることなく、ある程度の収入レベルが維持される。これから仕事や進路を選ぶなら、世界70億人がライバルの競争マーケットは避けたほうがよい、ということだ。

 

世界で勝ち抜く自信のある一握りの能力やスキルの高いエリートのみが実力勝負の競争分野へ挑戦すべきだろう。世界70億人との競争の中で勝ち抜けば、大リーグのイチローや松井選手のように収入は無限大だ。

 

グローバル化日本人メリットという切り口は斬新で、今世界で起きている構造変化をよく分析している。就職活動をする若者はもちろん、転職や将来の進路に悩む中堅ビジネスマンにとって必読の書だ。

 

多くの示唆に富む良書として、ぜひ本書の一読を薦めたい。