鈴木伸元氏は、東京大学教養学部を卒業してNHKに入局。報道局、スペシャル番組センター勤務などを経て、NHKスペシャルやクローズアップ現代などの番組を担当し、ギャラクシー賞の奨励賞を二度獲得している。
本書は、アメリカ民主主義を支えてきた新聞ジャーナリズムが危機に瀕していることを伝える衝撃の書だ。2004年~2008年の5年間に廃刊になった有料の日刊紙は49紙だったが、2009年は1年間で46紙も廃刊になっている。
新聞の消滅スピードは加速していて、例えばケンタッキー州コビントンという地域では、地元の地方紙が消滅した。住民は地元のニュースが入ってこなくなったと嘆いているという。
本書は以下の構成で、消滅しつつあるアメリカの新聞の実態と、新聞に代わるメディアの台頭を伝えている。
1.NYタイムズの最期
2.廃刊寸前のサンフランシスコ・クロニクル
3.続々と消滅する新聞
4.新聞に取って代わるメディアは何か
5.新聞がなくなった理由
6.日本の新聞はどうなるのか
本書の冒頭では、まずアメリカの名門新聞社であるNYタイムズが如何にして経営危機に陥ったかという経緯が述べられている。紙の新聞の中ではいち早くインターネットに進出し、閲覧者の増加を目指していた。
NYタイムズは、2007年に有料ブログをスタートしてから2年あまりで、インターネット版の完全無料化の賭けに出る。これによって自社ニュースサイトの閲覧者を拡大して、メディアとしての価値を上げることで新たな収益源を模索する戦略だった。
ところが、NYタイムズはインターネット版で惨敗する。2009年のアメリカのニュースサイト閲覧者数ランキングは、1位がMSNBC(マイクロシフトとNBCの合弁)、2位がCNN、3位がヤフーニュース、4位がAOLニュースと続き、NYタイムズは何と5位。
2007年以降、広告はインターネットの一人勝ち状態で、落ち込みの多い順に、新聞、雑誌、屋外、テレビといった形で、インターネット以外は大幅な落ち込みが続いている。
本書では、その後で、サンフランシスコ・クロニコルやその他新聞の廃刊、消滅へ向けた動きを取材により明らかにしている。アメリカでは凄まじい動きで紙の新聞は減少している。
その後で、新聞に取って代わるメディアとして、新興ニュースサイトが挙げられている。「ニュースの情報源として、どのメディアを重視しているか」 という質問に対して、2008年には 「インターネット」 と答えた人が遂に新聞を上回った。
グーグルやツイッターの台頭により、ニュースの情報源としての主役は、新聞から完全にインターネットへ移行した。人々は速報性、便利さ、安さ(無料)、情報へのアクセス容易性などから、インターネットへ流れた。
本書の最後では、新聞が消えるとどうなるか、という街への影響について述べられている。まず、地域に地元新聞が無くなると住民は情報過疎に陥ってしまう。また地方行政は監視システムが機能せずに腐敗が起こってくる。
また、日本の新聞への影響については、アメリカの新聞とは収益構造が違うため、全く同じ道を辿ることはないだろうと述べている。アメリカの新聞は8割が広告収入だが、日本の新聞ではその比率は3割で、残り7割は購読者から得る購読料収入だからだ。
但し、情報収集のインターネットへの移行は加速しており、今後日本でもメディアの在り方について大きな変化が起きてくることは間違いない。未来の情報社会を展望するキッカケとして、本書をすべての経営者、ビジネスパーソンに推薦したい。