池上彰氏は今や、テレビ番組にひっぱりだこの名キャスターだ。もともとはNHKに報道記者として入局し、「週刊こどもニュース」のお父さん役として、わかりやすいニュース解説でブレイクした。
2005年にNHKを退社してからはフリーのジャーナリストとして活躍、現在はバラエティの要素も兼ね備えたニュース解説番組で人気だ。こどもにもわかるように話すニュース解説は多くの芸能人を唸らせ、茶の間の人気もさらった。
本書は、リベラルアーツ教育の重視を掲げる東京工業大学に教授として招かれた著者の、東工大での講義録だ。東工大は理系の国立大学では最高峰で、総合大学の東大を除けば理系の知の頂点に位置する。
リベラルアーツとは、日本では一般教養と訳されるが、欧米の大学でいうリベラルアーツは、それよりも範囲が広く深いものだ。いわば専門の集合体、あるいは学際的な研究のための幅広い「教養」の学びだ。
理系専門大学の学生が対象だけに、できるだけ分かり易く現代社会の出来事や評価、日本経済の歴史や取り巻く社会環境などを伝える講義となっている。時事問題や国際問題を学問的な視点も入れて語っているのが興味深い。
原爆開発、リーマンショック、アラブの春、日本国憲法の改正、年金問題、オウム真理教など、テーマは幅広く、且つ現代社会・経済、あるいは世界情勢に深く横たわる問題点を鋭く分析している。
理系エリートがともすれば関心を向けず、深い考えていない現代社会の問題・課題について、専門領域の研究と結びつけて考えてほしいという狙いが込められている。
リベラルアーツを重視する欧米の大学に少しでも追いつくように、イノベーションの原点ともいえる、幅広い「教養」をぜひ、池上氏の講義や本書(講義録)から多くの人に学んでもらいたい。学生だけでなくビジネスマンにも薦めたい書だ。