世界経済の中心であり、「世界の警察官」たるアメリカ合衆国が大きな歴史の転換点に差し掛かっています。「綻びゆくアメリカ」に生きる人々の物語が全米で大きな反響を呼んでいます。
1%の富裕層と99%の貧困層との格差が許容できないほど広がりつつある現在のアメリカは、資本主義の矛盾と歪みが最も象徴的に表れた国と言えます。そこで本日紹介するのはこの本です。
ジョージ・パッカー『綻びゆくアメリカ』(NHK出版)
この本は、政治ジャーナリストで劇作家でもあるジョージ・パッカーさんが『ザ・ニューヨーカー』誌などに寄稿したエッセイと5年近くに及ぶ取材を経て書き下ろした原稿をコラージュのように再構成し、1970年代以降のアメリカの実情を描いた大作です。
2013年には全米図書賞(ノンフィクション部門)を受賞し、全米に大きな反響を巻き起こしています。この作品の特徴としては、アメリカの政治を主要な背景としつつ、著者の主張は敢えて出さずに切り取られた出来事など事実を積み重ねる手法で、「綻びゆくアメリカ」の実情を描き出している点にあります。
時間軸に沿って進行する物語には立場が異なる人々や利害が対立する人々が入れ替わり立ち替わり登場します。実際には出会ったことのない彼らが、まるでアメリカという舞台の中で出会い、議論し、歴史を織りなすさまを追体験しているかのような錯覚を覚えます。
この本の物語に登場する主な人物は以下の4名です。
1.ジェフ・コノートン(ホワイトハウスおよび上院議員のスタッフ、ロビイスト)
2.ディーン・プライス(ノースカロライナ州でバイオ燃料に夢を託す起業家)
3.タミー・トーマス(オハイオ州ヤングスタウンで工場労働者から地域の組織化リーダーに成長)
4.ピータ-・ティール(シリコンバレーのベンチャー・キャピタリスト)
いずれも1960年生まれの著者と近い世代で、私も同世代なので親近感が湧いてきます。旧来の秩序が綻びゆくアメリカを目の当たりしてきた人々で、生い立ちや職業も人生観もまったく異なりますが、激変する時代に流されそうになりながらも信念を持って自らの道を進む姿が重なり合って見えます。
取材には膨大な時間が費やされたそうで、とくに本書の冒頭と最後を飾る起業家のディーン・プライスについては、3年にわたり合計2ヶ月半もの密着取材が行われたと言います。
この主要4名以外にも以下のアメリカの著名人10名が本書の物語には登場して、時代の変化を描き出しています。
1.ニュート・キングリッジ(政治家)
2.オプラ・ウィンフリー(テレビ司会者)
3.レイモンド・カーヴァー(作家)
4.サム・ウォルトン(ウォルマート創業者)
5.コリン・パウエル(元米国務長官)
6.アリス・ウォータース(オーガニックレストラン経営者)
7..ロバート・ルービン(元米財務長官)
8.ジェイ・Z(ラッパー)
9.アンドリュー・ブライトバード(市民ジャーナリスト)
10.エリザベス・ウォーレン(破産法のスペシャリスト)
このほかに、フロリダ第三の都市であるタンパの変遷や世界の金融センターであるウォール街の様子が物語の中で描かれています。
「綻びゆくアメリカ」では、かつて安定していた社会構造が揺らぎ、秩序が失われていきます。社会は著しい不平等や経済破綻、倫理観の堕落など深刻な問題を抱えるようになっています。
そうした中でも希望を失わず、アメリカに生きる人々のたくましさと底力を感じるのが、本書ならびにアメリカという国家の真骨頂だと感じました。
世界の変化、時代の潮流はアメリカ社会を見なければ予測できません。皆さんもアメリカの変化を見ることができるこの本を手に取って、世界の未来を予知してみませんか。
では、今日もハッピーな1日を!