書評ブログ

柳井正『現実を視よ』(PHP研究所)

柳井正氏は、いうまでもなくユニクロを運営するファーストリテイリングの会長兼社長だ。柳井氏は、経営書を徹底的に読み込む読書家として知られ、ほんとうによく学ぶ。

 

マクドナルドを全米から世界にチェーン展開したレイ・クロックの自伝的名著『成功はゴミ箱の中に』(プレジデント社)に触発されて、ユニクロのチェーン展開を始めた逸話は有名だ。

 

ファーストフードでマクドナルドが実行したことを、ファッション分野で同じように行う、というコンセプトでユニクロを改革した。社名も、そこから「ファーストリテイリング」に決めたという。

 

今や、日本全国からアジア、米国、欧州など、世界にファスト・ファッションを拡げようとしている。ユニクロの基本方針は、世界で同じ品質、同じコンセプトのユニクロ商品を売る、若者から高齢者まで、誰もが着られるカジュアル且つベーシックな商品を提供する、ということだ。

 

柳井氏はまた、経営学の大家であるP.F.ドカッラーの著作も繰り返し読み込んでいる。 『マネジメント』にある、「事業の目的は顧客の創造である。」というドラッカーの教えを忠実に守っている。

 

これら経営学の基本、原理・原則を踏まえ、柳井氏は現在のグローバル競争の時代には、1社の勝ち組を除いてマーケットで生き残ることはできない、と強い姿勢で経営の舵を取る。

 

あまりの厳しさに音をあげて離脱する幹部、社員が後を絶たないという。本書は、そうした柳井氏の経営哲学が随所に書かれ、現代の日本の状況に警鐘を鳴らす。とくに日本の教育問題は深刻だ。

 

若者が海外へ出ない、覇気がない、チャレンジしない、という現代日本の閉塞感は致命的だ。国の為政者も、多くの大企業の経営者も、有名大学の教育者も、早くグローバル・スタンダードに気付かねば手遅れになる。

 

グローバル・マーケットで勝ち残る国際競争力を持った企業を経営するために必要な哲学、心構えを学ぶ上で本書は示唆に富む。ずべての経営者、経営幹部、若者に一読を薦めたい。