保坂隆氏は、慶應義塾大学医学部を卒業後、米国カリフォルニア大学への留学などを経て、東海大学医学部教授となった。その後、聖路加国際病院リエゾンセンター長、精神腫瘍科部長を務め、聖路加国際大学臨床教授だ。
本書は「ほんとうの人生は65歳から始まる」という著者の信条を、分かりやすい事例も交えて記した力作だ。50歳代になると誰もが「定年後の不安」で心が揺れ動く。
その心情の底にあるのは、これまでとは全く異なる、人生の「仕事」、「お金」、「人間関係」という三つの課題への向き合い方だ。
この大きな三つの課題をどうとらえ、どのように展開し、定年後の自分に最もふさわしい生きがい、暮らし方につなげていくけるか。それ次第で、第二の人生は幸せ、不幸に分かれて行く。
本書では、これら三つのテーマを中心に、少しずつ進む加齢、健康の揺らぎ、やがて訪れる 「人生最期のシーン」 にどう向き合い、受け入れていくかの考え方も、実例もふんだんに交えながら書き進めている。
定年から元気になる「老後の暮らし方」を、本書では以下の6部構成により展開している。
1.できるだけ 「現役時代」 が長く続く幸せ
2.年金生活が変わる 「上手な帳尻合わせ」
3.「超長寿時代」 の実りあるカップル
4.自分が地域と 「つながる」、「広がる」 喜び
5.自然に老いながら 「健康寿命」 を延ばす
6.定年後、「人生のゴール」 が見える幸せ
本書の中で、私がとくに印象深かったのは、「定年後の不安は枯れ尾花かも知れない」 という、著者の主張だ。
定年前後の4,000人を対象に訊いた 「定年後、不安に感じることは何ですか?」 というアンケートで、その回答は多かった順に以下の通りだ。
1.病気や体力の衰えなど (定年後69%、定年前62%)
2.医療・入院偽など (定年後53%、定年前61%)
3.生活費・食事代 (定年後33%、定年前66%)
4.年金の支給額 (定年後42%、定年前55%)
5.消費税・物価の変動 (定年後27%、定年前31%)
以下は「パートナーや家族との死別」、「働きたくても仕事がないこと」、「家族・子ども・孫のための費用」 などが続いているが、不安に感じる人の割合は一桁台にガクンと下がっている。
注目すべきなのは、1番目の病気・体力面を除いて、いずれも定年後の人より定年前の人の方が不安に感じている人の割合が高いということだ。人間は、見えない先のことは誰でも不安に感じるのだ。
こうした 「不安」 に感じる気持ちは、その正体や実態が明らかになれば徐々に薄らいでいく。 「幽霊の正体見たり、枯れ尾花。」 という言葉があるが、定年後不安というのはまさに 「枯れ尾花」 というわけだ。
そのほかにも本書には、定年後の暮らし方や考え方について、元気に過ごすヒントが満載だ。定年を控えた50歳代の方々に、ぜひ読んでほしい一冊だ。