赤字会社には赤字になる理由が存在します。ビジネスモデルが時代の変化に対応できておらず消費者やユーザーのニーズに合っていない、そもそもコストが高すぎで価格競争力がないなど様々です。
そうした赤字会社の中で共通して見られるのが「社員の士気の低下」です。経営者はいかに社員の士気を高めて持てる能力を最大限に発揮してもらうかが事業運営のポイントになります。そこで本日紹介するのはこちらの本です。
猿谷雅治『黒字化せよ!出向社長最後の勝負』
この本は、1991年の初版以来7万人以上の企業経営者・管理職に読み継がれてきた伝説の企業再生ストーリー『黒字浮上!最終指令』の改訂新版です。実話に基づいた小説で、中味が殆ど事実なので迫力とリアリティがあって工場運営立て直しのバイブルになっています。
今回の改訂新版では、ポイントになる場面ごとに「解説ノート」が付いていて、より分かりやすく教訓が学べる工夫が凝らしてあります。但し、まずは小説としてのストーリーを通読することをお薦めします。その方が臨場感あふれる物語を堪能できると思うからです。
その上で「解説ノート」に戻ってポイントを把握するという手順の方がより深く印象に残るでしょう。この物語は今や亡き著書・猿谷雅治さんの体験談に基づいています。登場人物の描写は一部本人と変えているフィクション部分があるものの、ストーリーの流れは実際の実話です。
本書のストーリーはまず一部上場会社の部長クラスの男・沢井正敏が万年赤字の子会社に出向赴任するところから始まります。赤字会社(工場)再建のために出向を命じられた時の条件は以下の3点でした。
1.この子会社が黒字に浮上できるかどうかの最後の戦いをしてみること
2.戦ってみて黒字浮上不可能の結論になったら会社を整理すること
3.以上の結論を1年以内に出すこと
与えられた条件から考えると1年後につぶす可能性が高いという状況なので、次の2点が制約条件になってきます。
1.設備投資など多額の資金を要する戦略・戦術はとれない
2.採用などによる人員補強はできない
つまり沢井としては現有設備・現有人員によって会社の黒字浮上を図らねばならないということで、いわゆる「組織の活性化」による業績向上だけが残された方策になります。
沢井が赴任した長年赤字経営を続けてきた工場は、沈滞しやる気を失って暗くじめじめとした雰囲気の中で、逃避的で無責任・面従腹背・現状墨守など組織全体が腐りきった状態でした。
沢井が社長として赴任して実行したことは、まず彼の経営哲学を社員に分かりやすく伝えることです。会社幹部一人ひとりと面談して会社の問題点を把握し同時に新社長としての「哲学」を伝えていきます。
沢井社長が伝えたメッセージは次の「基本方針」3点です。
1.オレがやる
2.協力する
3.明るくする
会社トップが幹部に徹底を指示し、自らも工場現場を毎日巡回して社員にメッセージを発信することで会社は徐々に変わっていきます。次第に結果が出始めると展望が社員の目にもそれが見えてきて士気が上がり組織が活性化してきました。
新社長の赴任から9か月目という短期間に、万年赤字の子会社が黒字に転換します。この物語を読むと開業以来赤字続きで破綻寸前に追い込まれた九州最大のテーマパーク「ハウステンボス」を、HIS創業者・澤田秀雄さんが社長に就任して再建を果たした事実と重なって見えます。
澤田さんも佐世保に赴任してまずテーマパーク内のスタッフに明るく楽しく仕事をすることを説いて回りました。夢を求めてやってくるお客様を迎えるパーク内のスタッフが暗い表情では二度と来てもらえなくなります。
この物語の沢井社長とハウステンボス澤田社長とは共通する経営哲学を持って再建にあたっていると感じました。企業規模や業種は違っても「経営を成功に導く原理原則」は同じだと言うことです。
そういう意味でこの本は、まるで自分が社長として経営再建の舵取りをしているがごとく追体験できるリアルなストーリーとなっていて、学ぶことが多いのではないでしょうか。
企業経営者、起業家あるいは工場や部門の責任者など会社管理職の方々に、ぜひこの本の一読を薦めたいと思います。
では、今日もハッピーな1日を!