ブランド戦略という言葉を聞いたことがありますか?
一般的に、差別性がなく価格競争に陥りやすい製品やサービスのことを「コモディティ(Commodity )と呼び、企業間での模倣や同質化の結果、差別性が失われていく状況を指して「コモディティ化」とも呼んでいます。
こうした状況を反映して1990年代から脱コモディティ化の手段としてのブランド構築とその戦略的な活用が注目を浴びるようになってきました。
そこで本日、紹介するのはこの本です。
田中洋 『ブランド戦略全書』 (有斐閣)
この本は、ブランド論の最新のあり方を学ぶうえで必要な知識が10部門に分かれて、理論的な論考から実際の企業の実務詳細にいたるまで、網羅的にまとめられている書です。
大学やビジネススクールの研究者を中心に、13名の執筆者が各分野を分担して記述しています。ブランド論の歴史から現在、未来の展望まで、幅広く扱っていて、研究者や実務家にとって欠かせない手引書という位置づけです。
元来、「ブランド」(Brand)という言葉は、古代ノルド語の Brander (「焼き付ける」の意) に由来し、英語の Burned から派生した名詞であるとされています。
つまり、元々の意味は、自分が所有する家畜などを他人のものと区別するための 「焼き印」 であり、その後、陶工などの職人が自分の作品に付けた目印を指す言葉になっていったそうです。
このように、ブランドおよびその付与行為としての「ブランディング」(Branding = ブランド化)の歴史は古く、マーケティングの歴史はブランド(ないしブランディング)の歴史そのものだと言えるほどです。
その後、マーケティングにおけるブランド論は様々な変遷を経て発展していくのですが、現在の情報通信革命において、大きな転換期が訪れています。
つまり、ソーシャルエコノミーにおけるブランド経営という流れです。これまでのブランド価値の本質は、「思い出に残る」特別な経験ということでした。
企業はそうした上質な体験や完成された世界観を提案し、消費者はそれに価値を見出すことによって経済活動が行われるという世界です。
ところが、ソーシャルエコノミーの下では、ブランドの価値は「ストーリー」で決まります。つまり、企業と顧客が協働して新たな経験価値を共創していくという双方向アプローチです。
つながりに対する欲求が根底にあるソーシャルエコノミーでは、ネットワーク、つまり人と人との関係性や絆に焦点が当てられていきます。
そうした中で、企業側がすべてをお膳立てするのではなく、顧客自らが価値創造プロセスに積極的に参加し、企業や他の顧客とともにどう価値をつくることができるかというプロセスそのものが、判断基準になってきます。
では、ブランド経営にはどのような仕掛けが必要でしょうか?
例えば、コミュニティ・サイトをつくり、顧客の意見交換の場を設けます。コミュニティの中で、活動を活発にしていく仕掛けが必要ですが、この本によれば、最も大切なのは「価値観の共鳴」ということです。
同じ興味・関心を共有する人々の集まりでコミュニティを形成し、彼らが求める価値観や関係性を強める役割を事業者が担っていく、という考え方が重要ということです。
以上のほかに、この本では以下にあるテーマでもそれぞれの執筆者が最新の研究成果を紹介してブランド論を展開しています。
1.ブランド・リレーションシップの戦略
2.ブランド・パワーの測定
3.B to B ブランドの測定
4.セールス・プロモーションによるブランド構築
5.地域ブランド論
6.プラオベート・ブランド戦略
7.知財視点のブランド・マネジメント
8.ブランドの歴史
単なる価格競争のみに陥る「コモディティ化」を避けるために、ブランド戦略は不可欠の要素です。事業の成長や安定に成功するため、同じ価値観を共有するコミュニティの形成と、その結びつきを強めるための情報発信がキーになると言えるでしょう。「ブランディング」を考えていく人に、この本は最新動向が分かる入門書として最適です。
では、今日もハッピーな1日を!