書評ブログ

ジョン・キム『不安が力になるー日本社会の希望』(集英社新書)

ジョン・キム氏は、韓国生まれの作家で、元慶応義塾大学大学院・政策メディア研究科の特任准教授だ。キム氏は、日本へ国費留学した後、米インディアナ大学で博士課程単位取得し、中央大学で博士号(総合政策博士)を取得した。

 

その後、ドイツ連邦防衛大学博士研究員、英オクスフォード大学客員上席研究員、米ハーバード大学インターネット社会研究所客員研究員などを歴任。アジア、アメリカ、ヨーロッパの三大陸の主要大学で研究を重ねた実績を持つ。

 

本書は、日本ならびに日本人の特徴を見事に描き出し、併せて自らの生き方を示した注目の書だ。とくに日本に関する記述は、日本人以上に日本のことを理解し、的確に表現していて参考になる。構成は以下の通りだ。

 

1.日本は沈んでいない
2.自分の人生は自らデザインする
3.世代を超えて調和する
4.美しく生きる
5.不安を力に変える人生

 

上記1の冒頭では、日本の失われた20年が採り上げられるが、日本はむしろ資本主義社会が成熟し、世界の先頭を走っていると指摘している。とくに日本人の高い倫理観や高品質のサービスは世界に類を見ない優れた資質だ。

 

そうした中で、物質的な豊かさがある程度達した成熟社会では、働くことにおける動機も変化する、という。金銭的なモチベーションで働く人よりも自己実現をモチベーションにして働く人が増えている。

 

企業が個人を活用する、つまり組織の中で生産性やパフォーマンスを高めていくためのトリガーが、金銭から、自由な時間や社会貢献、働きがいといったものに変わってきた

 

個人のマインドセットが変わりゆくのは、資本主義社会が発展していく中で避けられない。変化したマインドセットに合わせてうまくマネジメントできれば、個人の潜在能力を最大限発揮させ、パフォーマンスを高める組織を設計できる。

 

個人と組織と社会が共存共栄する新しい仕組みを作っていくことが求められている。キム氏は社会変革を目指していたが、国の制度よりも個人のマインドを変えた方が、社会的な変革にダイレクトに繋がると実感した。

 

国や企業ではなく、個人にとっての幸せを尊重する社会へ、日本はそういう社会に向かっている。個人が世界と簡単に繋がれるようになった今日、社会を変革することさえ可能になったと言えるだろう。

 

本書の後半では、日本の若者の生き方を、著者自らの生き方と対比させながら解説している。その洞察力と表現の適切さ、あるいは共感を呼び起こす主張には感嘆させられる。

 

多様な価値観こそが、新たな社会やイノベーションを起こす原動力だ。それが、著者の体験や生き方を具体的に示すことで説得力を持ってくる。数多くの若者にキム氏の生き方が支持されるゆえんだろう。

 

全ての若者、ビジネスパーソンや経営者に本書を心から推薦したい。