書評ブログ

ちきりん『多眼思考』(大和書房)

ちきりんさんは、社会派ブロガーと呼ばれる、新しい生き方を実践する注目の人だ。バブル期に証券会社に就職し、その後、米国での大学院留学を経て外資系企業に転職した。

 

2010年末に退職し、現在は執筆、対談、旅行など、「楽しいことだけして暮らす」 生き方を実践している。2005年3月に書き始めたブログ 『Chikirin の日記』 が月間200万PVを集める、日本でも有数の人気ブログとなった。

 

歯切れの良い表現と、現代の若者の気持ちを代弁するセンスは卓越している。とくに、働き方についての主張は多くの若者の支持を受け、「自由に生きる」、「自分の価値基準で生きる」 ことに対するこだわりは、多くの読者に影響を与えている。

 

本書は、140文字のつぶやきから成るツイッターへの著者の投稿を抜粋して、テーマごとに整理・編集したものだ。レベルの低い独り言が多いと言われるツイッターだが、ちきりんさんはツイッター上でも 「社会派」 のスタンスを貫いていて、興味深いツートが多い。

 

本書も、そうした著者の考え方や主張がよく分かる編集になっている。構成は以下の8テーマから成る。

 

1.生きること
2.働くこと
3.社会
4.少子化と高齢化と男と女
5.ゆるく考えよう
6.ビジネス
7.ぐろーばりぜーしょん
8.自律&未来へ

 

ちきりんさんのメッセージは、様々な分野に及ぶが、考え方はテーマごとにはっきりしている。私は彼女が批判を向ける旧世代の古きよき時代のビジネス界で生きてきた者だが、共感する部分が多い。

 

世の中の変化、時代の潮流に合わせて、考え方も働き方も生き方も変えていくべきだと思っているので、先を読めている著者の考え方に共感するのかも知れない。

 

本書に記された著者のツイッター投稿の中で、私がとくに共感し、印象に残ったものを以下に紹介したい。

 

1.つまらないこと、くだらないことを3つやめたら、人生はとても豊かになる
2.「愚痴を言う」、「他人を嫉む」、「誰かに評価して欲しいと願う」 ・・・ 人生を無駄にしたければ、この3つをどうぞ
3.あたしに必要なのは 「自由であること」、それを犠牲にしてまで手に入れたいモノは何もありません
4.「思考力がある、ない」 とか言うけれど、大事なのはどれだけ考えたか、つまり 「思考の量」 です
5.「自分が納得できる仕事をしている」 ということの価値はすごく大きいよね、人生なんてしょせん自己満足なんだから

 

6.「みんなと同じことをやる」 → 「供給過多の海に自ら飛び込む」 → 「仕事の単価はまず上がらない」 と理解すべき
7.ネットを含め市場の一番の特徴は 「多様性と混沌」 だから、整ってて安定してる環境でしか力を発揮できない人は厳しい
8.「頭がいい」 とかより 「稼ぐ力がある」 ほうが、これからの世の中、圧倒的に有利だと思う
9.自分の行動を 「空気」 なんかに左右させるようでは、リーダーにはなりえない
10.世の中には 「難しいことには価値がある」 と思い込んでる妙な人がいますが、「簡単で楽しいこと」 が一番いいに決まってる

 

11.世の中の大事なことの大半には簡単な答えなんて存在しない、簡単な答えが存在するのはどーでもいいことだけ
12.人生の時間を、できる限り、売りたくない
13.勝ちたいのなら 「頑張る」 のではなく、「勝てる分野」 を選び、「勝つ方法」 について考えるべき、むやみに頑張るのは人生の無駄
14.大丈夫、人生は何かを成し遂げるためにあるんじゃなくて、楽しむためにあるんだから
15.どんな時でも、どんなたいへんな時でも、笑わせてくれる人がいたら、その人に心から感謝できる

 

16.日本の根本的な問題は、富裕層への税率が高いことではなく、お金を稼ぐということへのリスペクトのなさだよ
17.何の仕事でもいいけど、これからは 「市場」 から遠いところに就職するのはとても危険
18.中国がどんなにやっかいな国でも、13億人もいる限り、誰も縁は切れない、人口は力なり
19.世界が変わるのを待つより、自分が変わったほうが早いですよ
20.使命が明確になり、それに向けて動き始めると、人生のピークは過去ではなく、未来にあるとわかる

 

とにかくメッセージにリズムというか、勢いがあって痛快な感じを受ける。世の中で常識と言われることに対して、角度を変え、視点を変え、原点に返って、自分のアタマで考えているから、読み手の心に響くのだろう。

 

『ゆるく考えよう』、『自分のアタマで考えよう』、『世界を歩いて考えよう』、『未来の働き方を考えよう』 といった、ちきりんさんの代表作と同様に、本書もまた読後感が爽やかだ。自分が主役の人生を送りたいと思う人に必読の一冊だ。