書評ブログ

『読みの「整理学」』とは?

皆さんは「読書の方法」はいくつかある、ということを意識したことはあるでしょうか。そこで今日は、現在91歳になる大学教授で『思考の整理学』にてベストセラー作家となった外山滋比古さんのこちらの本を紹介します。

 

外山滋比古『読みの整理学』(ちくま文庫)

 

この本は、ずっと本を読む生活をしてきた外山さんが、後に「一般の読み」について、「二通りの読み方」があることに気付いて書いた本です。「二通りの読み方」とは以下の2つです。

 

 

1.アルファー読み ; 既知を読む(意味が分かっているものを読む)
2.ベーター読み ;  未知を読む(内容をよく知らないものを読む)

 

 

前者のアルファー読みとは、例えば前日のプロ野球の試合を新聞記事で読む場合などで、試合を観戦していた人が読めば書かてれいる内容はよく分かります。

 

表現そのものが完全に理解されているかどうかは必ずしも問題ではなく、よくわかったという印象を持つことができます。こういう既知を下敷きにした読みの原型「音読」だと言います。

 

「音読」は、既知に導かれて読むので楽しいし、ものを読んでいる満足感を与えてくれます。しかし、知っていることをいくら読んでも新しいことが分かるようにはなりません。そういう読書のみでは進歩・変化が難しくなります。

 

そこで、もう一つの読み方である「ベーター読み」が求められることになります。ベーター読みの典型「学校の教科書」によって行われるのはよく知られているでしょう。

 

未知を読む「ベーター読み」の場合、外山さんによれば次の「二つの壁」があるから難しいと言います。

 

 

1.未知の文字や表現
2.文字や単語は分かっているのになお、何のことを言っているのか五里霧中という状況

 

 

上記1番目の壁は知らない単語や表現を辞書などで調べれば分かるのですぐに乗り越えられるが、問題は「2番目の壁」です。これは調べても分かりません。

 

多くの小中学生は、言葉や表現自体が間違っているのではないか、という発想に向かいがちです。「自分の知らないことは正しくない」というわけで、大人でもこういう発想の人はたくさんいます。

 

「2番目の壁」を突破する一つのヒントは「パラフレーズ」(=説明のための言い換え)だと著者は述べています。パラフレーズにも二種類あって、「言葉を言い換えるもの」「内容を説明するためのヒントを出すもの」です。

 

「2番目の壁」を突破するには、後者のパラフレーズを読み取ることが必要になると言うことでしょう。

 

 

外山さんは、大人になれば完全なベーター読みは少なくなって、何らかの既知の情報を手掛かりに未知の部分を類推して読む「アルファー・ベーター混合読み」が殆どになる、としています。

 

そうした中で、マスコミの商業的な要請(販売部数や反響の広がりなど)から、「アルファー読み」への退行が進んでいる、と警鐘を鳴らしています。

 

「アルファー読み」「ベーター読み」の分類は幼児期の「母乳後」「離乳後」の修得にその起源を遡ることができるので、現代の商業出版は「母乳後」に退化していっているという論です。

 

私は外山さんの指摘は重要な警鐘だと思いつつも、言葉や文字、出版物などは「生き物」であり、時代とともに変化するのはやむを得ないと感じています。

 

よく難解な「古典」が読めなければ価値がない、「ノウハウ本」や「ビジネス本」を馬鹿にして読まない人がいますが、そういう姿勢でいる限り、必ずしも世の中の変化が読めるようにはならないように思います。

 

 

最後に外山さんは、「素読」の効用について述べています。「論語」を意味も分からずに「音読」していても意味がないと思っていたら、後に大いに役立ったと言う話は多く聞きます。

 

四書五経の「素読」は人間を育てるとも言われています。「素読」の効用については私も実感しているところです。多くの示唆に富む「読書論」である本書の一読をぜひ皆さんにもお薦めします。

 

では、今日もハッピーな1日を!