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『33年後のなんとなく、クリスタル』が面白い!

元長野県知事で国会議員も務めた田中康夫さんが一橋大学在学中に『なんとなく、クリスタル』という小説で「文藝賞」を受賞したのが1980年です。

 

当時は若者の文化や生活感覚を赤裸々に描いた話題作としてベストセラーになりました。それから33年後を描いたのが本日、紹介するこの本です。

 

田中康夫『33年後のなんとなく、クリスタル』(河出書房新社)

 

この本は、1980年当時、大学生だった田中康夫さんの恋愛相手のモデル吉野由利さんを主人公として描いた小説『なんとなく、クリスタル』をモチーフにして、33年後の主人公がどのような人生の軌跡を辿ってきたかが描かれています。

 

田中康夫さんは「ヤスオ」として登場し、「由利」こと吉野由利さんとの再会場面を中心に、33年後の物語は展開します。その他にも由利の友人・江美子や、そのほか早苗直美など以前からのヤスオの友人が登場します。

 

女性たちはそれぞれの人生を歩み、それぞれの個性が魅力的に描かれています。33年前の生活から現在の生活へどのように変化したかの記述は興味深いものがあります。

 

この小説のハイライトは何と言っても吉野由利さんの人生、生き方です。後半に出てくる次の記述が印象的です。

 

 

1.「いろんな服飾をモデルとして身に纏っていた由利」
2.「女性の相貌を引き立てる化粧品の仕事に携わった由利」
3.「豊かさや幸せを人々に届ける経済活動と社会貢献の融合を目指してロンドンの経営大学院で学んだ由利」
4.「帰国後、ファッションに留まらずさまざまな広報業務を手伝う由利」
5.「その傍ら、旧来型の配給とは異なるヴィジョン・スプリングの活動を通じて、流通の新しいあり方を追い求めている由利」

 

 

この本の中では、ヤスオの「記憶の円盤」が何度も回り出し、描き出されてきます。場面の大半は、33年後にヤスオが由利や江美子やその他の友人たちと再会する場面です。

 

フレンチやイタリアンで食事をしながら、ワインが何種類も出てくるのと、ホテルのレストランやバーの様子など、かつての思い出と現在の様子が重なって描かれていて引き込まれます。

 

最後の部分では、何年も行きつけのヘアサロンと、そこで流れる音楽の記述がまた独特です。分かる人には分かって楽しいでしょう。かつての「ディスコ」、今の「クラブ」で流れる音楽が重なります。

 

この物語の締めくくりは由利のセリフのリフレインです。

 

 

「きっと、いろんな壁が待ち受けているんだろうな。でも、それは私だけに限ったことじゃない。だから、これからも私、歩んでいくんだわ。他の人からは、同じ場所に立ち止まっているようにしか見えなくとも・・・・・。うん、そうよ。身の丈に合った自分の生き方で、歩んでいくのよ」

 

 

また、1980年に書かれた原書の『なんとなく、クリスタル』新装版が最近、文庫にて出版されました。

 

こちらの原作もぜひ、読み比べていただきたいと思います。

 

 

実はこの本は、2015年2月11日(水)に開催した「第2回読書交流会」において参加者の方から紹介スピーチがあった本でした。その時の様子はこちらのコラムから確認できます。併せてどうぞ。

 

http://bit.ly/1xjZYS1

 

では、今日もハッピーな1日を!