書評ブログ

『たった一度の人生を変える勉強をしよう』という授業

世の中が大きく変化し、これまでの「正解」が通用しなくなってしまった今日、若者たちは何をどうやって学ぶべきでしょうか。そんな疑問に答えてくれる本があります。藤原和博さんのこの本です。

 

藤原和博『たった一度の人生を変える勉強をしよう』(朝日新聞出版)

 

この本は、東京大学を卒業してリクルートでトップ営業マンになり、その後、東京都の公立中学校で初の民間人校長を5年間務めて話題になった藤原和博さんが「授業の副読本」形式で書いた書です。

 

中高生の学びを変える「受験サプリ公式副読本」と銘打っています。これはまさに「正解のない時代を生き抜くための授業」で、藤原さんが実践してきた「よのなか科」という授業を発展させたものです。

 

現在、藤原さんは「ビジネス×教育×人生」をテーマに全国各地で講演するなど、アドバイザー的な立場で活動しています。ビジネス教育も知っていて、ついでに「人生を変える技術」にちょっとだけ明るい、ひとりの「先輩」という立場で本書では授業を進めていきます。

 

 

この本の冒頭では、これまでの「勉強」は役に立たないから忘れよう、とまず呼びかけています。強とは「勉めて強いる」と書くわけで、「無理やり押しつけられた”正解”に向かって、がむしゃらな努力をさせられること」を意味します。

 

日本は戦後の復興期から高度成長時代まで「成長社会」で、以下の3つが教育のキーワードでした。

 

 

1.ちゃんと(=正しく)
2.早く(=スピーダィーに)
3.いい子に(=従順に)

 

 

まるでロボットみたいな、恐ろしい話です。ただ、この教育方針は当時の日本では間違いとは言えません。「成長社会」のルールはいたってシンプルで、企業に求められたのは「もっとたくさん」、「もっと安く」、「もっと均質に」の3点だけでした。

 

これさえやっておけば、モノが売れ、会社も大きくなり、みんなの暮らしも良くなったからです。国全体も活気に満ちていました。そんな社会で求められるのは上記の3点です。

 

 

ところがその後、「失われた20年」と呼ばれる時代が来て、世の中から「正解」が消えていきます。「成長社会」では人々は「モノ(物質)の豊かさ」を求めましたが、これからは「心の豊かさ」が求められる「成熟社会」です。

 

つまり、正解一人ひとりの「心」の中にあるわけで、選択肢は増え、グローバル化インターネットの発達に象徴される情報通信革命によって、価値観が多様化する社会となりました。

 

「成熟社会」になると、みんなの価値観、生き方、働き方、趣味嗜好がバラバラに枝分かれして、とてもひとつの「正解」では括り切れなくなりました。これは「世の中のルール」が変わった、と言ってもいいくらいの大変化です。

 

「成長社会」の時代に求められていたのは、1秒でも早く「正解」に辿り着くための「情報処理力」でした。だから「勉強」が重視されたのです。伝統的な「読み・書き・ソロバン」です。

 

ところが「成熟社会」になると「正解」はありません。ジグソーパズルで「正解」に嵌め込むのではなく、レゴブロックを組み立てるような力、「自分だけの正解」を見つけ出す力が必要になります。

 

著者の藤原さんはこうした力を「情報編集力」と呼んで、具体的には以下の5つの力を挙げています。

 

 

1.シミュレーション能力
2.コミュニケーション能力
3.ロジカルシンキング能力
4.ロールプレイング能力
5.プレゼンテーション能力

 

 

本書では、これらを「正解のない、これからの時代を生き抜く能力」として、5つの授業として展開しています。それぞれの授業の中味についてはぜひ本を読んでいただきたいと思います。

 

最後にまとめとして、「人はいったい何のために生きるのか」、「人にとっての幸せは何か」という問いに対する答えを「閉講の辞」として述べています。

 

藤原さんは「理想の職場」「理想の家庭」などは幻想で存在しないと断言します。人生に「正解」はなく、幸せのかたちにも「正解」はない。でもそこには必ず、一人ひとりの「納得解」があるはず、というのが本書の結論です。

 

5つの授業で学んだ、観察・仮説・検証・証明のステップで、自分だけの「納得解」を導き出すことができるはずと、藤原さんは締めくくっていますが、皆さんは「納得解」を見つけられるでしょうか。

 

では、今日もハッピーな1日を!