世界の変化が速く激しく、且つ複雑になる中で、「教養」 が見直されている。欧米の大学トップ校では、以前からリベラルアーツ教育の伝統の下、リーダーには 「教養」 が強く求められてきました。
日本でも、少子高齢化に伴う大学の生き残り競争の中で、「リベラルアーツ」 を掲げる大学が数多く出てきています。以前は、「教養主義」 という言葉が、むしろ悪い意味で使われ、専門性重視の傾向が続いてきました。
しかしながら現代では、「教養」 があるからこそ、幅広くものを考え、他人の要望も理解したうえで判断できる、という力が求められています。専門だけを重視して、例えばコンンピュータ技術を磨いたとしても、魅力的なソフトは開発できません。
あるいは個性的なホームページを作る場合には、人々がどのようなことを求めているかを知り、言葉やレイアウトのセンスを身につけ、さまざまな要素を理解してこそ、人を惹きつけるソフトやホームページを作ることができます。そこで今日はこちらの本を推薦します。
樋口裕一 『「教養」を最強の武器にする読書術』 (大和書房)
この本では、まず 「教養」 とは何かが述べられています。樋口さんによれば、「教養とは多様な価値観を知ること」 です。本を読んだ分量ではなくて、他国の文化や過去に遡って考察する姿勢こそが、教養人の証です。
教養があるとは、博識になること自体ではなく、多様な価値観を共有できる人こそ、真の教養人であると、著者は呼んでいます。ではどのようにして 「教養」 をつけるのでしょうか。
一番効率的なのは、たくさんの本を読むことだと樋口さんは言います。つまり、教養と読書は切っても切り離せないということ。芸術、文化に触れることも大事ですが、読書をすることは教養には不可欠だ、ということです。
書物には、大きく分けて2種類あり、ノンフィクションとフィクションです。この本では、どちらかに興味があるとしても、意識的に両方の種類を読むことを勧めています。
さらに読書には、教養を積むこと以外に、付随するメリットとして、以下の3つがある、ということです。
1.異文化を推測し、許容する能力が高まる
2.関心が自分の外と内に広まる
3.知の座標軸を作る
3番目の 「知の座標軸」 は分かりにくいかも知れませんが、自分という一人の人間の経験や考えを中心にしながらも、それを絶対視せず、ものごとを相対化しつつ考えることが可能になる、ということです。
ある程度のボリュームの本を読んでいくと、本を読む前の固定的な価値観とは異なってきます。狭い自分の体験だけから判断するのではなく、反対意見も踏まえ、別の考え方も知ったうえで自分の考えが明確にできるようになってきます。
それが 「知の座標軸」 を持つということで、自分の意見が体系化されていきます。もうひとつ、著者はこの本の中で 「読書を始める年代に ” もう遅い” ということはない」 と述べています。
10代から50代以上の人々まで、読書に取り組む姿勢についてアドバイスを送っています。さらに、ノンフィクション、フィクションの順で、「はじまりの1冊」 から、最終的な到達点の本まで、具体的に良書を推薦書として提示しています。
まず、ノンフィクションについては、以下の12ジャンルが教養の核になり、はじまりの本を挙げています。
1.環境 : 『沈黙の春』 (レイチェル・カーソン)
2.日本文化 : 『タテ社会の人間関係』 (中根千枝)
3.政治 : 『日本の宿命』 (佐伯啓思)
4.ポストモダン : 『寝ながら学べる構造主義』 (内田樹)
5.歴史 : 『歴史とは何か』 (E・H・カー)
6.哲学 : 『権力への意思』 (ニーチェ)
7.人権 : 『夜と霧』 (ヴィクトール・フランクル)
8.宗教 : 『不思議なキリスト教』 (橋爪大三郎、大澤真幸)
9.心理 : 『ものぐさ精神分析』 (岸田秀)
10.日本語 : 『日本語文法の謎を解く – 「ある」日本語と「する」英語』 (金谷武洋)
11.自然科学 : 『利己的な遺伝子』 (リチャード・ドーキンス)
12.自己啓発 : 『マネジメント – 課題、責任、実践』 (P・F・ドラッカー)
ノンフィクションの読み方として、樋口さんは ①多読で知識の幅を広げ、②精読で知識を深め、③アウトプットによって教養が磨かれる、と説明しています。私の 「多読法」 と同じコンセプトです。
この本の後半は、フィクションの読み方で、世界文学と日本文学を幅広く読んで、「知の体系」 を知ろう、と呼びかけている。フィクションの詳細については、この本を読んでのお楽しみとします。
この本に掲載されている、日本文学と世界文学のマップはそれぞれユニークで参考になります。また、本の巻末には推薦書が一覧になっていて検索もしやすい工夫がされています。
「教養」 を身につけるための読書の羅針盤として、ぜひこの本を手に取ることをお薦めします。
では、今日もハッピーな1日を!