元朝日新聞記者が書いた「1000冊読むと人生が変わる」と説く「読書術」の本があります。本がどんどん読める、頭のいい方法が学べ、50代の定年前起業を目指す人にぜひ、読んでほしい一冊です。
本日紹介するのは、ベストセラー『「考える力」をつける本』(三笠書房)の著者である轡田隆史さんが書いた、こちらの書です。
轡田隆史『1000冊読む!読書術』(三笠書房)
この本は、「たかが読書、されど読書」と言わんとする、奥深い書です。著者の轡田隆史さんは、プロフェッショナルの記者であり作家ですが、世界の先人の知見を熟知する「思想家」、「哲学者」の域に達する識者ではないでしょうか。
まず本書の冒頭で著者は、「読む人は考える人になる」と述べて、1987年にノーベル文学賞を受けたロシア生まれの詩人ヨシフ・ブロツキイ(1940年~1996年)を紹介しています。
ブロツキイは、旧ソ連時代に定職につかない有害な人物として逮捕され、強制労働の判決を受けました。裁判のときに女性の裁判官から「詩人になるための教育を受けたのか?」と問われ、「そんなものが教育で得られるなんて考えてもみなかった、それは神に与えられるものです。」と答えています。
当時、20歳そこそこの若者だったブロツキイの自信の源は読書にあると思う、と轡田さんは言います。その根拠は、ノーベル文学賞受賞講演で語ったブロツキイの次の言葉です。
「何よりも重い重罪は、本を軽視すること、本を読まないこと。」
詩人の信念も自信も、明らかに書物という存在に支えられているのだとぼくは確信している、と著者は述べています。
そして轡田さんは、サラリーマン生活の評価について、次のように言及します。
「サラリーマン生活は、豆腐みたいな確固とした姿あるものを作り出すわけではない。” 評価 ” という、他人が作り出す、姿もかたちもないものに左右されながら漂っている。評価されれば自信がわき、されなければ自信は雲散霧消する定めである。」
この見方に私はまったく同感です。全く「いいかげんな」他人による「評価」によって、私たちは自信をなくしたり、自分が存在する意味を失いかけたりしています。
著者は、自分なりの自信を何とか創り出す方法は、「考える」という孤独の行為だと言います。
「考える」とは、何ものにも侵されることのない聖域です。だから轡田さんは、考えてさえいれば、それが「力」であり、自信であると自分に言い聞かせるように努めた、ということです。
「考える」には、まず多くの人々の考えに接しなければならない、自分ひとりで考えられることなんかタカが知れている、と著者は言います。
長い文化・文明の歴史のなかで、無数の人々が考えてきました。その考えにふれる、ほとんど唯一の手段こそ書物であると、轡田さんは述べています。
詩人ブロツキイは、書物が描き出した未来のほかに人類の未来はない、とまで言う。書物を無視すれば、未来を無視することになってしまう、のです。
さて、本書は以下の5部構成から成っています。冒頭の詩人と書物への思いの紹介だけでも本書は読む価値のある書だと私は感じました。ただ、その後にも随所に、著者の知見が垣間見られます。
1.「多読」は絶対、あなたを変える!-本を1000冊読むと何が起こるのか?
2.本を読めば読むほど、頭はよくなる-読書習慣のある人、ない人の「埋められない差」
3.「できる人」は、なぜ読書家なのか?-人間的魅力とその遊び心とは?
4.「読む力」は何を与えてくれるのか?-要約力、表現力、発想力を育てる方法
5.「1000冊読破」からの贈り物-もし本がなかったら世の中どうなる?
本書の中で著者は、書評というものの価値を大きく提唱しています。毎日新聞が毎週、日曜朝刊に掲載する「今週の本棚」という3ページにわたる書評欄を何度も勧めています。
執筆陣が、作家の丸谷才一さん、評論家の山崎正和さん、フランス文学者の鹿島茂さんなど、現代日本を代表する「読書の名人」、すなわち「文章の名人」、「要約の名人」だから、ということです。
これは書評の大先進国イギリスの流儀だそうで、一つの文章が長く、ゆったりと書かれていて、楽しく、コクがある、ということです。
また、本場イギリスの書評については、丸谷才一さんの編著書『ロンドンで本を読む』(知恵の森文庫)を紹介し、まさに「書評芸の見本帖」で、その「芸」はの楽しさは、実物を読むよりも大きいくらい、とまで言っています。
丸谷才一 編著書『ロンドンで本を読む』(知恵の森文庫)
「書評を読むほうが、現物の本を読むより楽しく、しかもよく理解できる」というところに、実は「書評」という存在の重要な本質がのぞいている、というのが轡田さんの見立てです。
この後も本書では、読書にまつわる先人の知恵や奥深い効用が続きますが、興味ある方はぜひ、本書をお読みいただきたい。私の「書評」で全てを語り尽くすことは不可能なほど、本書は奥深いことをお伝えして、ペンを置きます。
では、今日もハッピーな1日を!