西川善文氏は住友銀行頭取を務めた後、小泉純一郎首相に要請されて民営化された日本郵政の初代社長に就任した。住友銀行の天皇と呼ばれた磯田一郎元住友銀行頭取の懐刀とも言われた。
西川氏は銀行生活45年のうち30年間を不良債権処理の仕事に費やし、ある新聞から「不良債権と寝た男」と呼ばれたこともあった。本書は、そうした著者の不良債権処理と格闘する姿が回顧録として描かれたものだ。
負債総額1兆円、取引先数35,000社を超える総合商社の安宅産業の再建に始まり、金屏風事件で有名な平和相互銀行、不動産バブルに踊ったイトマンの破綻処理は金融史に残る荒療治だった。
住友銀行がさくら銀行と合併し、三井住友銀行になって初代頭取に就任した西川氏は、「スピード重視」の経営に力を注いだ。最大の競争相手は「時代の変化」だとして、お客様のニーズを掴むスピードを上げる経営に徹した。
セブンイレブンの鈴木敏文会長の唱える「ライバルはつねに変化する顧客ニーズ」という経営哲学と共通だ。西川氏も鈴木会長と同じ危機感をもって経営の舵取りをしていたのではないか。
西川氏が在任中、最も残念だと述懐しているいるのが、宿沢広朗 (取締役専務執行役員・当時)の突然の死だ。宿沢ジャパンとして記憶のある方もいると思うが、早稲田大学の名ラガーマンで、ラグビー日本代表監督も務めた人物だ。
頭取候補だった、というほど西川氏の信頼は厚かった。55歳の若さだったが、登山中の心筋梗塞による急逝だという。本書にはその無念さが切々と書かれている。
西川氏自身も2005年に大腸がんの診断を受け、直後に竹中平蔵大臣から 「日本郵政の社長にと小泉首相が頭を下げている」 と、大役の要請を受けた。家族の反対もあったが、西川氏は2006年1月に要請を受諾して社長に就任した。
以上のような西川氏の波乱万丈の人生が描かれている、とても示唆に富んだ書籍だ。金融マンは必読、金融機関をめざす大学生もぜひ読んでおくべき書だろう。いや、全てのビジネスパーソンに心から薦めたい名著だ。