出版社の社長であり編集者であり、且つ作家でもある人が、「読書術」ならぬ、書籍を買うための本「購書術」を書いて出版しました。本日紹介するのはそんなコンセプトで書かれたこちらの本です。
中川右介『出版社社長兼編集者兼作家の購書術』(小学館新書)
この本は、普通の読書術とは違った本の「買い方」を記した書です。著者の中川さんは買った本が4万冊、作った本(雑誌含む)が500冊、書いた本が50冊という、本の達人。
読んだ本の冊数は不明だそうです。アルファベータという出版社の経営者でもあり、まさに「本のオモテとウラ」を知り尽くした人物です。
この本はそうした本を知り尽くした「達人」が半世紀にわたりひたすら本を買い続けてきた経験から知り得た知識をもとにした「本を買うための指南書」で、構成は以下の6部から成っています。
1.本をめぐる言葉
2.書店の使い分け術-どの店で、どんな本を、どう買うか
3.私を作ってきた書店(実践編①)
4.本の整理・処分術-買った本をどう置くか、どう整理するか、どう売るか
5.電子書籍を読んでみた(実践編②)
6.本とは何か-本の何を買っているのか
冒頭で著者は、出版業界の慣習や流通などについて基本的な業界知識を説明しています。取次や再販売価格維持制度など出版業界特有の商慣習についてです。
出版社や書店の経営や著者との関係、その他現在の電子書籍や多数の新刊本発行についても述べていて、基本的なことがよく理解できます。
その上で、次に本題である「本の買い方」について、中川さんの経験を交えてどの店でどんな本を買えばよいかを説明しています。私の場合は本の消費者としての立場しかないため、「価格」と「利便性」しか判断軸がないのですが、中川さんの場合は業界の様々な立場を経験し、業界全体の立場から判断しています。
とくに「本への愛」を深く感じる記述が印象的です。図書館が人気作家のベストセラーなどを大量購入して貸し出す近年の傾向を強く批判しています。
貸出し率を競う観点から、本来の図書館としての使命・役割(一般の人が手に入れにくい専門書、学術書、希少本などを文化振興の観点などから所蔵して地域住民に提供)を忘れているという指摘はその通りだと感じます。
また、近年急激に取扱いシェアを拡大し、影響力を増してきたアマゾンについても、出版社に対する敵対的な姿勢を強く批判しています。ただ、徹底的に消費者・利用者の立場に立ったアマゾンの姿勢は逆に高く評価され、ビジネスを拡大していることは確かでしょう。
私もアマゾンの利便性、とくに品揃え、即納体制、カスタマーサービス対応については強く支持していて、利用はどんどん拡大している感じです。
それから、本書で興味深いのは書店の動向や役割についての考察です。町の小さな本屋が廃業で減少する一方、大型書店やコンビニが取扱い数量、売り場面積を拡大しています。
私も大手書店の基幹店は昔からよく利用しています。紀伊國屋書店新宿本店が筆頭ですが、ジュンク堂池袋本店、丸善丸の内本店、八重洲ブックセンターなどです。
そうした中で本書でも紹介されている池袋西武の中にあるリブロ本店が間もなく西武百貨店のテナントから出てしまうことになったのは寂しい気がします。私も利用が多かっただけに残念です。
本書の最後には、「私たちは本の何を買っているのか」という根本的な問いかけがなされ、著者なりの考察が紹介されています。「紙が欲しいのか、情報が欲しいのか」という問いに対しては、もちろん書いてある内容、情報ということになります。
そこからの関連で、本の「定価」の決め方や「印税」の仕組み、電子書籍と紙の本の違いは印象的です。紙の本は発行部数に対して印税が払われ、売れ残りは関係ありません(書店も出版社へ返本)が、電子書籍は売れた分だけの印税です。
この本は、全ての本好きに贈る、あるようでなかった「究極の本の買い方術」を披露した書です。編集者にして作家かつ出版社経営者、そして読者という「本のグランドスラム」ゆえに語れる「購書術」と言えるでしょう。
皆さんもぜひ本書から、「本の神髄」と「究極の本の買い方」を学んでみませんか。
では、今日もハッピーな1日を!