『中国経済はなぜ崩壊しないのか:不動産市場と財政金融システム』
「中国経済はもう限界だ」「不動産バブル崩壊は避けられない」
――そんな言説があふれる中で、冷静に、構造的に “中国はなぜ崩れないのか” を解き明かす一冊があります。
本日紹介するのは、1992年に大蔵省(現・財務省)に入省後、中国大使館参事官として北京に4年間駐在。金融庁では日中金融協力を長年にわたり主導し、財務省中国財務局長も務めた、まさに “中国金融の中枢を知る当事者”。
現在は金融庁研究参事(中国金融)、地域経済活性化支援機構常務取締役、広島大学客員教授として活躍する柴田聡さんと、18年間中国で生活し、金融庁でも中国金融専門調査員を務めた野村資本市場研究所の塩島晋さんが執筆した、こちらの書籍です。
柴田聡・塩島晋『中国経済はなぜ崩壊しないのか:不動産市場と財政金融システム』(KINZAIバリュー叢書)
この本は、センセーショナルな中国崩壊論とは一線を画し、「不動産市場」「地方財政」「金融システム」という3つの軸から、中国経済の “耐久構造” をエビデンスベースで解剖した、極めて骨太な分析書です。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.中国不動産市場の低迷と混乱
2.中国の「不動産バブル崩壊」は本当か
3.中国の地方債務問題
4.中国の不動産金融
5.中国の金融システム《マクロ編》
6.中国の金融システム《地方金融編》
7.中国経済が崩壊しない理由
本書の前半では、現在進行形で起きている中国不動産市場の低迷を、政策・統計・過去事例と照らし合わせながら整理していきます。とくに重要な視点は次の通りです。
◆ 中国の不動産低迷は「初めて」ではなく、過去にも経験済み
◆ 日本型バブル崩壊とは、前提条件も制度もまったく異なる
◆ 「保交楼」政策に象徴される、国家主導のリスク封じ込め
◆ 民間デベロッパーから国有主体への「国進民退」の進行
◆ 住宅市場は調整局面にあるが、全面クラッシュとは限らない
この本の中盤では、不動産問題と不可分な「地方債務」「不動産金融」に焦点が当たります。主なポイントは以下の通りです。
◆ 地方財政と不動産市場は深く結びついた “運命共同体”
◆ 問題は表の債務よりも「隠れ債務」にある
◆ 地域差が大きく、全国一律の危機ではない
◆ 大手国有銀行が持つ「不良債権プール機能」の存在
◆ 金融危機は“発生させない前提”で制度設計されている
本書の後半では、中国経済が大混乱に陥らない理由が、金融システム全体の設計思想から説明されます。非常に示唆に富むポイントは次の通りです。
◆ 中国は「危機を起こさないためのコスト」を受け入れている
◆ 300兆円規模の不良債権処理も制度的に吸収可能
◆ 地方金融は個別処理・合併再編で時間をかけて整理
◆ 「最後の砦」は中央政府と国有金融システム
◆ 保障性住宅を軸に、住宅需要はなお残されている
本書を読んで強く感じるのは、中国経済を「崩壊するか・しないか」という二元論で見ること自体が、現実を見誤らせるという点です。中国は、効率や市場原理よりも「秩序維持」「時間稼ぎ」「部分最適の積み重ね」を選ぶ国。その結果、成長率は鈍化しても、急激な崩壊は回避されやすい――本書は、その構造を冷静に可視化してくれます。
中国経済を
・投資判断
・地政学リスク
・日本経済への影響
という観点から正しく理解したい方にとって、感情論を排した “必読の基礎資料” と言える一冊です。
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では、今日もハッピーな1日を!【3941日目】








