斉藤洋二氏は1950年生まれ、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)で為替ディーラーをやった後、日本生命保険で資産運用を担当するなど、マーケットで仕事をしてきた金融のプロフェッショナルだ。
現在はネクスト経済研究所代表で、ロイター通信のコラムを執筆して人気を博している。本書は非常にスケールの大きい良書で、著者の金融マンとしての集大成といえる力作だ。
冒頭に、白川前・日銀総裁の「金融政策はアートである。」というニューヨークでの講演の一節を紹介している。アートとは人文科学(あるいは社会科学)で、サイエンス(自然科学)と対比される。
要するに、公式で語れる自然科学と違い、金融政策は「職人芸」の世界だから素人が口をだすな、という皮肉だろう。この日銀生え抜きの唯我独尊こそ、世界の中央銀行が大胆で迅速な金融緩和で雇用拡大を図ったのに対し、ひとり日銀だけがデフレを長期化させ、未曽有の円高を招いた真因だろう。
歴史的にも佐々木直総裁の石油ショック時のインフレ、三重野康総裁の行き過ぎたバブル退治による不況長期化など、日銀生え抜き総裁の金融政策は致命的な失敗の歴史だ。
それはともかく、経済を予測することはアートであり、サイエンスであり、その双方のアプローチを駆使して市場の心(心理)を読むことが大切だ、というのが著者の主張、私も全く同感だ。
一方で、歴史は短期・中期・長期の周期運動により成り立っているとのフェルナン・フローデル(仏の歴史家)の歴史観に沿えば、将来予測は可能だ。長期は自然、環境により、中期は人口動態、国家、戦争、そして短期は個人、出来事の周期運動により決定される。
結論として、1971年ニクソンショック以来、40年にわたった円高、そしてその背景となった日本経済は今、歴史的大転換を迎え、今後40年に向けて、円相場は200円が視野に入る(目標175円)世界に向かって動き出している。
経済予測が非合理で困難な作業であることは事実だ。「経済予測はアートであり、サイエンスであり、そして心理学的慧眼を有する者のみが勝ち残る」 との認識に立てば、市場に向かうに恐れることはない。
市場とは、自己の「欲望と恐怖」をいかにバランスさせるかという、自己との闘いである。歴史観、相場観、経済予測に対する姿勢・考え方のすべてが私の考え方と極めて近い。ぜひ一読を薦めたい珠玉の書だ。