書評ブログ

『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 』

「半導体の製造工程のうち、どのステップが滞っても、新たな計算能力の世界的な供給が危機に瀕する。AI時代においては、データこそが新たな石油だとよく言われる。しかし、私たちが直面している真の制約は、データではなく処理能力の不足にある。」と述べている本があります。

 

本日紹介しているのは、1987年米国イリノイ州生まれ、マサチューセッツ州ベルモント在住、ハーバード大学にて歴史学学士号、イェール大学にて歴史学博士号を取得タフツ大学フレッシャー法律外交大学院国際歴史学准教授で、マクロ経済学および地政学コンサルタントクリス・ミラーさんが書いた、こちらの書籍です。

 

クリス・ミラー『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(ダイヤモンド社)

 

この本は、台北からモスクワまで、3つの大陸にまたがる歴史的文書の調査や、100人を超える科学者、技術者、CEO、政府官僚へのインタビューに基づき、「国際政治の形、正解経済の構造、軍事力のバランスを決定づけ、私たちの暮らす世界を特徴づけてきた立役者は、半導体なのだ。」と結論づけている書です。

 

 

本書は以下の8部構成から成っています。

 

1.半導体の黎明期

2.半導体産業の基軸になるアメリカ

3.日本の台頭

4.アメリカの復活

 

5.集積回路が世界をひとつにする

6.イノベーションは海外に

7.中国の挑戦

8.武器化する半導体

 

 

この本の冒頭で著者は、「データの保存や処理ができる半導体の数は限られており、その製造工程は目が回るほど複雑で、恐ろしいまでのコストがかかる。いろいろな国から購入できる石油とはちがって、計算能力の生産はいくつかの決定的な急所にまるまるかかっている。それは、一握りの企業、ときにはたった1社でしか生産できない装置、化学薬品、ソフトウェアである。」と述べています。

 

そして「今日の経済のなかで、これほど少数の企業に依存しきっている分野は、半導体産業をおいてほかにないだろう。」と続けています。

 

 

本書の前半では、半導体の黎明期」および半導体産業の基軸になるアメリカ」について、以下のポイントを説明しています。

 

◆ 第二次大戦後の技術者である盛田昭夫(ソニー創業者)、モリス・チャン(TSMC創設者)、アンディ・グローブ(インテルCEO)

◆ トランジスタの理論化

◆ 複数のトランジスタを1枚のシリコン基板に組み込む「集積回路」(チップ)の発明

◆ 半導体の量産化

◆ 計算能力の指数関数的な成長を予測した「ムーアの法則」

 

◆ 集積回路の共同発明者ロバート・ノイス(フェアチャイルドセミコンダクターとインテル共同創業者)

◆ 日本の経済復興とアジアでの半導体組み立て

◆ 太平洋を超えたサプライ・チェーン

◆ インテルのDRAM革命

◆ 全世界がアメリカのイノベーション・インフラと固い結びつき

 

 

この本の中盤では、日本の台頭」「アメリカの復活」および集積回路が世界をひとつにする」について解説しています。主なポイントは次の通り。

 

◆ 成功し過ぎた日本と日米半導体戦争

◆ フォトリソグラフィ工程で日本のニコンに敗れるアメリカ

◆「1980年代のp原油」と化した半導体

◆ インテル再興とマイクロプロセッサ

 

◆ 韓国の台頭とソ連の「コピー戦略」

◆ 日本の奇跡が止まる

◆ 台湾TSMCの隆盛と中国ファーウェイとの関係

◆ シリコンウェハーに照射する「リソグラフィ戦争」

◆ 携帯機器の市場拡大とアメリカの驕り

 

 

本書の後半では、イノベーションは海外に」「中国の挑戦」および武器化する半導体」について考察しています。主なポイントは以下の通り。

 

◆ 工場を持たない「ファブレス革命」

◆ 中立的立場のTSMCによる「大同盟」

◆ 半導体の設計をするアップル

◆ スマートフォンは「チップの宝庫」

◆ オランダのEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置メーカーASML

 

◆ ファウンドリ事業へ進出してTSMCに撃破されたインテル

◆ 中国指導部の方針転換「サイバーセキュリティなくして国家安全保障なし」

◆ 習近平の「中核技術の半導体を自給自足」

◆ ファーウェイの隆盛と5Gの普及

◆ 情報化だけでなく「人口知能化」する戦争

 

◆ 中国の「半導体支配」という土台

◆ 中国版「スプートニク・ショック」とファーウェア排除

◆ 半導体不足とサプライ・チェーン問題

◆ 台湾が持つ半導体製造能力とジレンマ

 

 

この本の締めくくりとして著者は、「半導体産業が拡大し、トランジスタが微細化するにつれ、世界規模の巨大な市場の重要性が一段と高まっている。今日では、、国防総省の7000億ドルという潤沢な予算でさえ、国防目的の最先端の半導体製造工場をアメリカ本土に建設するには足りないのが現状だ。」と述べています。

 

さらに「計算能力を生み出すプロセスは驚くほど複雑であり、シリコンバレーの歴史が単なる科学や技術の物語ではないことを証明している。テクノロジーは、市場が見つかってこそ前進するものなのだ。」と続けています。

 

半導体の歴史は、販売、マーケティング、サプライ・チェーン管理、コスト削減の物語なのです。「ムーアの法則の終わりがさんざん囁かれながらも、半導体産業に流れ込む金はどんどん増えている。」と著者は繰り返しています。

 

 

あなたも本書を読んで、半導体が石油以上の「戦略的資源」であることを理解し、世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防について考えてみませんか。

 

 

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では、今日もハッピーな1日を!【3048日目】