「筆者にとって、大学で過ごした期間は大変すばらしいものでした。天国のような職場だと思っていました。」と述べたのち、続けて「筆者は、未だに大学というところに多くの違和感を持っていますので、その違和感を率直に書き記したいと思います。」と告白して大学の実態を紹介している本があります。
本日紹介するのは、1957年東京都生まれ、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)入行、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にてMBAを取得、主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学・商学部教授として教鞭を執り、2022年定年退職、現在は経済評論家として活動する塚崎公義さんが書いた、こちらの書籍です。
塚崎公義『大学の常識は、世間の非常識』(祥伝社新書)
この本は、銀行員から大学教授に転身した著者ならではの視点で、「大学の常識と世間の常識は異なっている」ことを提示することで、「大学はどんなところか」という大学の全体像を掴んでもらうために書かれた書です。
本書は以下の8部構成から成っています。
1.大学教授の「変な」価値観
2.大学は何のために存在するのか
3.大学教授の「優雅な」生活
4.大学教授になるには
5.大学改革・私案
6.大学生を勉強させる方法
7.経済学は本当に役に立たないか
8.塚崎教授の「異色な」活動
この本の冒頭で著者は、「大学がどんなところかを記した本は意外に見当たりません。それは、書ける人が限られているからです。」と述べています。
本書の前半では、「大学教授の変な価値観」および「大学は何のために存在するのか」について著者の見方を解説しています。主なポイントは以下の通り。
◆ 大学教授の価値観は「人間の価値は論文で決まる」
◆ 優れた論文とは、「誰も試みたことのない何かを証明できたもの」
◆ 論文の評価に「役に立つ」という軸はない
◆ 大学では「良い結果」より「正しさ」を求める
◆ 大学教員の仕事は、研究と教育と学内行政
◆ 経済学理論を学ぶことより、よい人生を歩むのに必要なことを教える
◆ 就職支援は大学への貢献になり、受験生を増やし、学生の質を高める
◆ 大学の定員は多すぎない、大学院の定員が多すぎる
この本の中盤では、「大学教授の優雅な生活」「大学教授になるには」および「大学改革・私案」について説明しています。主なポイントは次の通りです。
◆ 大学教授は、上司がいない、ノルマがない、時間が自由
◆ 大学教授はまじめで、義務でもない論文執筆や学会発表で忙しい
◆ 大学教授と企業人、好みや適性でどちらがいいとは言えないが、ともにメリット・デメリットがある
◆ 大学教授は孤独
◆ 大学教員の最大ストレスは入試関連業務
◆ 教授への道は、大学院で博士号を取り、助教、講師、准教授、教授と昇進だが、年々狭き門に
◆ 博士号取得では「何を専門分野にするか」が重要
◆ 論文は、興味より評価で選び、その後はコネも重要
◆ 論文を書き、査読付きの学会誌に掲載される研究成果を上げるのが教授への王道
◆ 大学教授を研究者と教育者に分ける改革を
◆ 大学院の数を減らし、研究者の指導は研究者が行う
◆ 大学の学部は教育者が企業人を養成するため、考える訓練、伝える訓練をする
◆ 教授陣に高齢者が多いことが問題
本書の後半では、「大学生を勉強させる方法」「経済学は本当に役に立たないか」および「塚崎教授の異色な活動」について、以下のポイントを説明しています。
◆ 大学の講義はつまらないから学生が勉強しない
◆ 大学の勉強がビジネスの現場で役に立たないので、企業は採用で成績を重視しない
◆ 大学1年生に内定を出し、何年か働いたのちに大学に戻って学ぶ
◆ 教養科目が就職に役立たないことと、教養科目が人生に役立たないこととは別
◆ 経済は複雑、完全な情報を得ることが難しい、取引コストがかかる、人間はまちがえる
◆ 経済学を学ぶ理由は、①物事を論理的に考える頭の体操、②経済学者の言っていることを理解し、問題点を指摘
◆ 研究をせず、異色の「教育」活動をし、「学内行政」を効率化
◆ 学外で社会貢献
この本の巻末には、次の4つの「付録」が掲載されています。
1.新人教員へのアドバイス
2.講義で工夫したこと
3.講義初回の演説「自己責任論」
4.経済学講義「『神の見えざる手』は正しいか」
この本の締めくくりとして著者は、「20年後の大学は本格的な淘汰の時代を迎えます。」と述べています。
そして、法科大学院の乱立のようなことが起きるのは、大学に「経営者」がいないからだ、と著者は言います。大学は全員一致を旨とする教授会の自治で運営されているため、長期的な将来像を見据えた大胆な施策を取ることが難しい、ということです。
あなたも本書を読んで、「大学の常識は、世間の非常識」であることを学び、「大学とはどんなところなのか」を理解してみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2792日目】