白取春彦氏は、1954年青森県生まれで、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。ベルリン自由大学にて哲学・宗教・文学を学んだ。
哲学と宗教に関する解説、論評の明快さには定評があり、『頭がよくなる思考術』(ディスカヴァー21)など、著書も多い。
本書は、「濃く」「豊かに」生きる人の本の読み方・選び方について述べた書だ。白取氏によれば、「1冊の ” 深い読書 ” は100人の教師にまさる」 という。
また、「人生の鉱脈(ヒント)は本の中にあり、読書法が変われば人生が変わる」 とも述べている。まさに、これからの時代にこそ役立つ 「読書の技術」 大全とも言えるのが本書だろう。
著者は本書の冒頭で、本を読む人と読まない人の決定的な差は何か、という問いかけをしている。本は知識を吸収するために読む、というのが一般的な見方だ。
しかし、それだけではない。本物の知識、すなわち、本だけが本物の思考力をもたらすのだ。「人間関係で迷ったとき、悩んだときが本を読め」 と白取氏は言う。
心の整理ともいうべきことが簡単にできるようになるのは、本を読むことによって、物事とその関係を整理して理解し、その軽重、有用無用、意味無意味を判断するという訓練が、自分で意識しないうちにできるようになるからだ。
つまり、読書をする習慣とは、「脳が活性化する、思考の整理習慣」 ということなのだ。読んだ分だけ、頭の働きは確実によくなる、ということだ。
本書は以下の5部から構成されている。
1.本を読む人、読まない人の決定的な差
2.人間的魅力が増し、人生が豊かになる読書
3.自分を成長させてくれる本は、こうやって選ぶ
4.人生の充実度がガラリと変わる 「本の読み方」
5.深く・大量に・速く読むための読書案内
本書の中で、私が最も感銘を受け、印象に残っている箇所は、65ページに掲載されている図だ。「本を読まない人」 と 「本を読む人」 のイメージが図で示され、以下のような対比説明が付してある。
1.本を読まない人 ; 視点も見える範囲も制限がある
2.本を読む人 ; 自由に視点を変えられるばかりでなく、全体像も把握できる
これはまさに、私が人生において 「多読」 を薦める理由と共通する。先般、紹介した齋藤孝氏の 「読書術」 に関する著書で提唱されていたこととも同じ趣旨だろう。
齋藤氏は、「視点移動」 という言葉を用い、「多様性」 が学べると主張した。私も、「全体を俯瞰する力」 と、「世の中には様々な考え方、価値観を持った人々がいる」 という多様性を、1万冊を超える読んだ本から学んできた。
そのほかにも、本書で述べている論点は、齋藤孝氏の著書と通じるものが多い。以下に挙げてみよう。
1.ベストセラーよりロングセラーが大切、古典を読め
2.情報をいくら集めても知識は超えられない
3.読書では、①書物の主張(結論)、②その主張を導いた根拠、③その根拠の前提、の3点をおさえよ
4.センスのよい人は行間を読むのがうまい
5.想像力をたくましくすること、これが読書をやさしくする道の一つだ
6.知恵のある人だけが、情報を教養に変えられる
7.読書は明確な目的があってこそ、確実な結果が得られる
本書のはじめには、「読書は、人生を知的に楽しみつくす知恵である」 と記されているが、さいごの部分には、養老孟司氏の速読法が紹介されている。
養老網孟司氏はその著書 『バカにならない読書術』 の中で、次のように明かしている。
「速く読めるのは、飛ばし読みするからです。どこを飛ばすか。さっと目を滑らせていて、そこに違和感のある文字が飛び込んでこない限りは、飛ばすのです。つまり、引っかかるところだけを読むのです。・・・(中略)・・・ だって引っかからないところは自分がわかっているところだから。だから飛ばしていいわけです。」
このような飛ばし読みができるのは、やはり自分の中に知識の豊富なストックがあってこそのことだ。しかし、亀の歩みのような読書を重ねることによってのみ、速読を可能にする知識や理解の層が厚くなっていく。
したがって、本物の速読のノウハウの第一歩は、じっくりと多くの本を読むことなのだ。また、心が乱れていれば、本を読むことは誰にとっても難しい。
裏を返せば、読書できるということは心身ともに安定しているということであり、感謝すべき状況だ。実りある、自分が主役の人生を送るために、すべての人々に本書ならびに本書でいう 「深読み」 の読書を薦めたい。