「組織と個人を取り巻く環境は今、大きく変化しています。」「働き方は益々これまでの枠を超え、より自由度が高く、個人に寄り添った仕組みに変化を遂げていくでしょう。」と述べて、人材マネジメントのあり方の変化を解説している本があります。
本日紹介するのは、経営支援・人材育成を専門とする実践重視のコンサルティング会社である株式会社HRインスティテュートが書き、同社の三坂健・代表取締役社長が編集した、こちらの新刊書籍です。
株式会社HRインスティテュート・三坂健『この1冊ですべてわかる 人材マネジメントの基本』(日本実業出版社)
この本は、人材マネジメントの基礎知識、導入の方法から働き方、マネジメントの新潮流や最新トピックまでを完全網羅して、分かりやすく解説している書です。
本書は以下の8部構成から成っています。
1.人材マネジメントの重要性が高まっている
2.人材マネジメントの目的と役割
3.時代の要請と人材マネジメント
4.「人材獲得」における人材マネジメント
5.「人材育成」における人材マネジメント
6.「人材の評価と組織運営」における人材マネジメント
7.社員が活躍しやすい組織をデザインする
8.持続して成長する組織をつくる人材マネジメント
この本の冒頭で著者は、人材マネジメントは「ヒューマンリソース」という捉え方に加え、「ヒューマンリレーションシップ」(=人との関係性)を重視したマネジメントが重要になる、と指摘しています。
その背景にあるのは価値観の変化です。価値観の変化は行動の変化に繋がり、例えば、次のような「これまでの働き方の枠」を超えて、より自由度の高い働き方に変化していく、と本書では説明しています。
◆ 企業に就職せずフリーランスとして働く
◆ 複数の企業や業務に跨って仕事をする
◆ オフィスではなく自宅やどこか別の場所で勤務する(テレワーク)
自由な働き方というのは同時に「自律」を求めるものであり、自律できる人材が活躍し、企業にも求められる流れが起きていると著者は指摘しています。
こうした大きな変化の中において、人材マネジメントの重要性、企業経営、チーム運営における役割は益々高まっていくというのがこの本のポイントです。
本書の前半では、人材マネジメントの重要性が益々高まってきた背景を歴史的に考察し、人材にいかに「効率的に」働いてもらうかという「ヒューマンリソース」の考え方から、人材にいかに「主体的に」働いてもらうかという「ヒューマンリレーションシップ」という考え方を重視すべきことを強調しています。
多様化していく社員や仲間を束ねていくためには「関係性」を重視し、育むスタンスをマネージャーや会社の人事部が持っていなければならないのです。
そのためのリーダーシップのあり方として、ハーバード大学のリンダ・ヒル教授が提唱している「羊飼い型のリーダーシップ」を紹介しています。
これは従来のピラミッド型組織における「管理的な」マネジメントとは反対の、以下のコンセプトを重視した顧客を最上部に位置づけ、顧客に近い現場-ミドル-トップへと下へフィードバックされる「逆さまのピラミッド」による「委任的・編集的な」マネジメントです。
◆ 付加価値重視
◆ 顧客重視
◆ 創造的なイノベーション
◆ 多様化
◆ フラットで双方向のマネジメント
◆ 仮説検証重視
以上のような人材マネジメントの根底には、次の3つがあり、それが職場の「心理的安全性」を高め、活力を生み出す、と著者は説明しています。
◆ 信頼(互いへの信頼感を高める)
◆ 感謝(相手に感謝を伝える)
◆ 尊重(相手の存在を尊重する)
「心理的安全性」というキーワードは、グーグルが生産性向上プログラムとして調査した「プロジェクトアリストテレス」にて、生産性が高く、高パフォーマンスをあげているチームに共通する最重要の項目として結論付けているものです。
また、先進的な人事制度として、「100人いれば100通りの働き方があって良い」とするサイボウズの人事制度を紹介しています。サイボウズの人事制度改革は、創業時から管理部門の責任者として社員の離職率が大きく上がった混乱期を経験して、社員との「ザツダン」から現在の働き方への変革に辿り着いた山田理副社長兼サイボウズUS社長を中心に進められたものです。
山田理さんによる「100人100通りの働き方」を実現した経緯を綴った本はこちらです。
続いて、人材マネジメントの目的と効果について解説しています。
人材マネジメントとは、「個人(社員やメンバー)が、所属する組織や社会のために、能力を最大限に引き出し、発揮することを支援する組織の関わり」と本書では定義しています。
そこで、「個の能力」を最大限に発揮することを通じて組織の目標を達成する、という目的を通して、さらに個人は様々な場面で経験を積むことによって「人材」としての価値を高め、「人財」となっていくことが人材マネジメントの目的と効果になります。
そこでは、企業成長と人材成長の両立が実現され、好循環を生み出すと著者は解説しています。
次に、経営理念(ミッション)・目標(ビジョン)・経営戦略と人材マネジメントの関係および、組織やビジネスモデルとの関係についても考察しています。
本書の中盤では、変化する時代の要請とそれに対応した人材マネジメントのあり方や新しい潮流を紹介・解説しています。主なテーマは次の通りです。
◆ 働き方改革
◆ 副業解禁&フリーランス時代
◆ 女性活躍
◆ 男性社員の育休取得
◆ 介護離職と休職への備え
◆ シニア人材の活躍
◆ 外国人雇用の進展とダイバーシティ
人口減少社会の日本にとって、これらテーマは生産性をいかに向上させるかのキーになる変化であり、とくにシニア人材の活用は私の最も注目するテーマです。生涯現役社会の実現に向けて、「トリプルキャリア」という働き方を提言している拙著もぜひ、ご参照ください。
続いて、人材獲得および人材育成における人材マネジメントについて考察しています。詳細はぜひ、この本を手に取ってお読みください。
この本の後半では、組織運営や組織のデザイン、および持続して成長する組織と人材マネジメントについて解説しています。
人材マネジメントと組織に関わる基本的なコンンセプトや必須の知識はすべて網羅され、基本書としてとても充実した内容になっています。私が特に重視して注目するテーマは以下の通り。
◆ ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用
◆ ホラクラシー型組織
◆ プロセス評価(KPI)と結果評価(KGI)
◆ PDCAとOODA
◆ OKR(Objective and Key Result):ムーンショットと呼ばれる大胆な目標設定
◆ 人材データベースを用いた戦略的な人事機能
◆ ダイバーシティ・マネジメント
◆「主体性を挽き出す」人材マネジメント
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けたビジネスの「オンラインシフト」や最近の新たな変化について、以下の4つのColumnが掲載されていて参考になります。
1.オンラインシフトで新卒採用に何が起きている?
2.オンラインシフトで露呈した新たな課題とは?
3.外国人社員のマネジメントにおける要諦とは?
4.オンライン化の経営的インパクトをどう乗り越えるか
この本の締め括りとして著者は、「人材マネジメント」とは、読者の皆さんが今、いる場所においてできる限り、人を幸せにするための手法であり、考え方である、と述べています。
私も、企業経営や人生設計において「幸福学」の考え方を入れて基軸にすべきと拙著の中でも提唱していて、とても共感できます。
あなたも本書を読んで、働き方やマネジメントの新潮流を全て網羅した「人材マネジメントの基本」を学び、実践に活かしてみませんか。
最後に、編集者の三坂健さんのほか、株式会社HRインスティテュートに所属する本書執筆メンバーは次の4名です。
◆ 石田 なお子・コンサルタント
◆ 高尾 祐輝・コンサルタント
◆ 西山 侑里・人事企画担当
◆ 江草 嘉和・HRI(Thailand)Co; Ltd. 代表取締役社長、コンサルタント
また、株式会社HRインスティテュートの経営支援・人材育成を専門とする実践重視のコンサルティングに関心のある方は、こちらのサイトへどうぞ。
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では、今日もハッピーな1日を!【2448日目】