大石哲之氏は、慶応義塾大学を卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)勤務を経て、ベンチャー企業を共同創業した後、フリーのコンサルタント兼作家として活動している。
会員制サロンの 「ノマド研究所」 を主宰し、グローバル時代のノマドに関する言説が注目を集めている。現代は、グローバル化、ボーダレス化、フラット化の世界であり、いかにサバイブうるかがすべてのビジネスパーソンに問われている。
本書は、一部のフリーランスや富裕層を対象にしたものや、単なる未来予想の書ではなく、全ての人がノマドを強いられる現実が始まっていることを示す書だ。
まず著者は、フランス知性、あるいはヨーロッパの頭脳、とまで呼ばれる思想家兼経済学者のジャック・アタリ氏が著書 『21世紀の歴史~未来の人類から見た世界』 (作品社)の中で提唱したノマド論を紹介している。
ジャック・アタリは、グローバル化が進み国家が終焉していく過程で、全ての人が次の三つのカテゴリーのうち、いずれかの 「ノマド」 になってしまうという未来図を描いている。
1.ハイパーノマド (21世紀の新しい支配階級)
2.バーチャルノマド (定住民として国家の枠組みの中に住みながらネットやガジェットを使って国境を超える)
3.下層ノマド (仕事を求め世界中に出稼ぎに行かねば食っていけない)
アタリによれば、ハイパーノマドとは次のような人々だ。サーカス型の企業の所有者、ノマドとしての資産を有する者、金融業や企業の戦略家、保険会社や娯楽産業の経営者、ソフトウェアの設計者、発明者、法律家、金融業者、作家、デザイナー、アーティスト、オブジェ・ノマドを開発する人などだ。
ハイパーノマドは世界に数千万人いて、多くは厳しい競争を勝ち抜いてきた勝利者で、雇われる側でも雇う側でもない。ときに複数の方が木や職を持つ。ハイパーノマドは新しいクリエーター階級だ。
場所にとらわれずに世界中で事業を展開したり、自分のスキルや発明品を売り込むことができる人々だ。気まぐれで、国という定住地に基盤を置かないのが共通する特徴だ。起業家もハイパーノマドだ。
そうしたハイパーノマドやグローバル企業がリードする世界の中で、国家の終焉が始まるとアタリは予測する。これが、アタリの描く、ハイパーノマドの出現と、国家の崩壊の姿だ。
次に、アタリが指摘するのは、グローバル版出稼ぎ労働者の 「下層ノマド」 の末路だ。彼らは、最も賃金の安い国や地域に移動し、単純作業の仕事を求めざるを得なくなる。今後は日本においても単純労働者を日本国内の賃金で雇い続けることは難しくなっていくだろう。
本書では、続けてグローバルエリートとしてのノマドを取材した実例が何名も紹介されている。とくにアジアでは活躍しているノマドが多い。起業家ノマドの事例も紹介されている。また、次世代ノマドの育成ということで、英語教育の最前線取材も出てくる。
最後に、ロケーション・インデペンデント (デジタル・ノマド)として働く最先端の事例が紹介されている。そして、ノマド化する時代を生きるヒントとして、「どこに所属しているのか」 よりも 「何ができるか」 が問われる、と述べている。生き残るノマドに共通する特徴は次の4点だ。
1.所属ではなく個人
2.フラットに考える
3.身軽さを保つ
4.現地に溶け込む
そして、ノマドとして活躍するには以下の4点に取り組むべきだという。
1.英語を学ぶ
2.LCCを使って海外を見てみる
3.海外で働く
4.プロフェッショナリティを身に付ける
大きな時代の変化の中で、世界では国家と言う単位が意味を失い、個人の実力で勝負する時代になる。すべての人々にとって、ジャック・アタリが予言した姿が現実のものになりつつある今、本書はぜひ読むべき書だ。心から推薦したい。