「いつか訪れる大切な人との別れ。その準備はできていますか?」と問いかけ、穏やかな「見送り」のあり方を提案している本があります。
本日紹介したいのは、ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士で、米国と日本で1,200人以上を見届けた、佐藤由美子さんが書いた、こちらの新刊新書です。
佐藤由美子『死に逝く人は何を想うのか 遺される家族にできること』(ポプラ新書)
この本は、音楽療法士として、米国オハイオ州のホスピスで10年間、そして青森慈恵会病院の緩和ケア病棟にて、多くの患者の死を見届けた経験を持つ著者の佐藤さんが、「死に直面した人の心の変化」や、「大切な人のために家族ができること」を書いたものです。
アメリカと日本での「24のケース」を紹介しながら、音楽療法を通して、「大切な人との別れ方」を提案しています。
本書は以下の3部構成から成っています。
1.死に直面した人の心の変化
2.大切な人のために家族ができること
3.グリーフについて-悲しいのは、当たり前のこと
本書の冒頭で著者は、「死に直面したとき、人はさまざまな痛みや苦しみを経験する。病気に伴う体の痛みや不快感の大半は、薬をうまく使うことによって抑えることができるが、スピリチュアルペイン(精神的な痛み)は薬で解決できないため、対応が難しい。」と指摘しています。
本書によれば、スピリチュアルペインとは、「自分らしく生きられなくなった悲しみや、人生の意味を見出せない苦しみ、人生を振り返ってやり残したことへの後悔、大切な人との関係を修復できない苦悩」などを指すそうです。
こうした「死に直面した人」の心の痛みを、正確に理解している著者の経験と、そこから導き出された分析や的確な推論は、本書の多くの事例を読み進むうちに、強い説得力を持って、読者の心を捉えます。
また、こうしたスピリチュアルペインを「癒す」ことができるのは、本人だけだという本書の主張も、確かにその通りだと、事例を読む中で納得しました。
本書の中で著者は、「死に直面した人の心の変化」として、次の5つを挙げています。
1.孤独感(Isolation)
2.ショックと否定(Shock & Denial)
3.怒りと悲しみ(Anger & Sadness)
4.不安と恐怖(Anxiety & Fear)
5.希望(Hope)
最後の「希望」に至るまでの過程で、死を迎えようとしている末期の患者たちは、多くの矛盾した感情を持つものだ、と著者は言います。
そして、死に直面した人たちは、それまで生きてきた人生や性格、周りのサポートの有無、彼らを取り巻く環境などによっても大きく感情が変化する、ということです。
また、死を迎える人の心について書いた本として、精神科医のエリザベス・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間-死とその過程について』(中公文庫)を紹介しています。
同書によれば、死の受容プロセスには、以下の5つの段階がある、としています。
◆ 否定
◆ 怒り
◆ 取引
◆ 抑うつ
◆ 受容
こうした「死に直面した人の心の変化」については、佐藤由美子さんが音楽療法士として、実際に立ち会ったケースを、本の中で紹介して、詳しい解説がなされています。
ここでは敢えて、具体的な詳細は書きませんので、興味のある方はぜひ、本書をお読みください。
また、この本の中盤からは、患者に寄り添う家族ができることについて、ケースを紹介しながら具体的に書かれています。
私がとくに印象に残ったのは、人生を振り返り、内省する「ライフ・レビュー(回想)」についての記述です。
よく高齢者の方が昔の話をすると、「また思い出にひたっている」とか「現実逃避している」などど否定的に見られがちです。
しかし、回想には極めて重要な役割がある、と本書では述べています。そして次のように指摘しています。
「過去を振り返り、内省することで彼らは人生の意味に気づき、現状を乗り越える力を得ていく。そしてときには、やり残したことに気づいたりもするのだ。」
そして、音楽の力を用いて、意図的に回想の過程をサポートすることを「音楽回想法」と言い、ただ音楽を聴いてもらうこともあれば、一緒に唄ったり楽器を弾いたりすることで、回想につながることもあるそうです。
末期の患者さんは、とてもボーナブル(vulnerable)な状況にあり、傷つきやすいため、周囲にいる私たちは「大きな器」になって、そのまま受け止め理解することが大切だ、と言います。
本書の最後には、「グリーフ」、すなわち、「深い悲しみ」や「悲嘆」について書かれています。もちろん、大切な人を失うことに対する「悲しみ」です。
グリーフは避けて通れない過程だ、と本書では述べています。ただ、乗り越えるためのヒントとして、次の6つを紹介しています。
◆ 最初の1年は大きな決断をしない
◆ 自分に優しくする
◆ 感情を殺さない-音楽を使ったセルフケアについて
◆ 周囲にサポートを求める
◆ 同じような経験をした人と知り合う
◆ 複雑なグリーフは専門家に頼る
本書は、「死に直面した人の心」を考えることで、周囲の私たちが、「生きることを考えること」に繋がってくることを、教えてくれます。
死というのは、いつかは誰にでも訪れるもので、それを意識することによって、「今の生き方」や、自分の人生を問い直すことになります。
本書の中で、著者の佐藤さんが紹介してくれる24のケースは、ほんとうにリアルで、死を迎える人や家族など寄り添う人の心の変化が、伝わってきます。
改めて自分の生き方や人生を問い直し、勇気をもらえる本です。死について考えることは、生きることを考えることだと再認識させられました。
大切な人との別れは、すべての人が経験することです。穏やかな「見送り」ができるよう、そして「死を考えること」により「よりよく生きる」ために、本書を心から推薦します。
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では、今日もハッピーな1日を