「風に吹かれ、遠くへ行きたいと思ったことのある人」に、そっと手渡したくなる一冊があります。
本日紹介するのは、1944年東京生まれ。東京写真大学中退後、流通業界誌編集長を経て作家・エッセイストに。「本の雑誌」編集長としても知られ、『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。SF、紀行、食、写真、自伝的小説と幅広いジャンルで活躍し、日本の旅文学を体現してきた作家・椎名誠さんが書いた、こちらの書籍です。
椎名誠『パタゴニア あるいは風とタンポポの物語り』(集英社文庫)
この本は、南米大陸最南端・パタゴニアを舞台にした冒険紀行でありながら、同時に「愛」と「不安」と「生きること」を描いた、極めて私的で静かな物語です。チリ海軍のオンボロ軍艦に揺られ、マゼラン海峡、ビーグル水道、そしてドレーク海峡へ――自然の猛威と孤独の中で、著者の内面が深く掘り下げられていきます。
本書は以下の11部構成から成っています。
1.トランクの中
2.寒い夏
3.マゼラン海峡
4.海に還る氷河
5.コンドルはいいなあ
6.狂暴海域
7.悲しみの火の国
8.洪水
9.アンデスの風が吹く
10.胡椒とスカンク
11.アベマリア
本書の前半では、辺境の地パタゴニアへと向かう旅の始まりが描かれます。荒涼とした風景と、どこかユーモラスな視点が同居しながら、読者を一気に異世界へと連れ出します。主なポイントは以下の通りです。
◆ チリ海軍のオンボロ軍艦という舞台装置が旅情を高める
◆ マゼラン海峡からビーグル水道へ向かう航路の臨場感
◆ 風と寒さに支配された土地の圧倒的な存在感
◆ 船旅特有の孤独と人間模様の描写
◆ 「行ってしまった」という実感が心に染み込む導入部
この本の中盤では、荒野をジープで走り、氷河やコンドルと対峙する外界の旅と並行して、著者の内面にある不安と葛藤が色濃くなっていきます。主なポイントは次の通り。
◆ 巨大な自然の中で人間の小ささを思い知る
◆ コンドルが舞う空の描写に込められた自由への憧れ
◆ ドレーク海峡という “狂暴海域” の緊張感
◆ 冒険の高揚感と、ふと訪れる虚無感
◆ 旅先で突然よみがえる「日本に残した妻」の存在
本書の後半では、旅は次第に内省の物語へと変わります。パンパで見た黄色いタンポポが、病身の妻への想いを呼び起こし、冒険記は静かな愛の物語へと収束していきます。主なポイントは以下の通りです。
◆ 極限の自然が、心の奥底を露わにする
◆ 冒険の裏側にある「置いてきた日常」の重さ
◆ タンポポという小さな存在が象徴する希望
◆ 愛する人を想う気持ちが、旅の意味を変えていく
◆ 最終章「アベマリア」に漂う祈りのような余韻
この本は、派手な冒険譚ではありません。むしろ、遠くへ行くことで、いちばん大切なものがはっきり見えてくる――そんな静かな読後感を残す一冊です。
旅とは、距離を移動することではなく、心の奥行きを広げること。著者の文章は、そのことを風のように、そっと教えてくれます。
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