「日本人の給料は1997年をピークに20年以上にわたり減少傾向が続いている。」「OECDの調査によると日本の平均年収はついに韓国以下。日本は物価だけでなく、給料も『安い国』になってしまった。」と指摘している本があります。
本日紹介するのは、浜矩子、城繁幸、野口悠紀雄ほかが書いた、こちらの書籍です。
浜矩子、城繁幸、野口悠紀雄ほか『日本人の給料』(宝島新書)
この本は、日本の給料が上がらないという問題について、7人の識者が論じた書です。いずれも興味深い分析ですが、日本固有の事象であるところに共通点があります。
本書は以下の8部構成から成っています。
1.先進国の最新「給料事情」: 坂田拓也(フリーライター)
2.手取りベースの平均年収は20年以上にわたり減少傾向: 北見昌朗(北見式賃金研究所所長)
3.給料上昇を阻む日本型雇用とおじさん世代: 城繁幸(人事コンサルタント)
4.企業の異常な内部留保の積み増しがもたらす「誤謬」: 脇田成(東京都立大学教授)
5.日本人の給料が上がらない原因はデジタル化の遅れ: 野口悠紀雄(一橋大学名誉教授)
6.政治家にも経営者にも国民を豊かにするという「魂」がない: 浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)
7.雇用のセーフティネット不在の影響が大きかった: 神津里季生(日本労働組合連合会前会長)
8.大企業と富裕層に有利な税制が給料格差を広げた: 江田憲司(立憲民主党・衆議院議員)
この本の冒頭で著者は、日本人の給料は、「経済のグローバル化に翻弄されながら日本固有の問題を抱えるという皮肉がある。新政権は果たしてこれらの問題を解決し、日本人の給料を上げることができるのだろうか。」と述べています。
本書の前半では、「先進国の最新給料事情」、「手取りベースの平均年収は20年以上にわたり減少傾向」および「給料上昇を阻む日本型雇用とおじさん世代」というテーマにて、有識者が日本の給料問題を論じています。主なポイントは以下の通り。
◆ 主要先進国の平均年収ランキングで、日本は35カ国中22位で23年で上昇率0.3%
◆ 日本は、勤続年数による昇給率だけ世界トップ(勤続30年で186)
◆ ニューヨークは年収2000万円でも「中流層」
◆ イギリスは「金融」の年収が高く、2500万円超も
◆ ドイツは平均年収が安定して上昇、不動産価格も上昇
◆ イタリアの平均年収は低位安定だが、残業なし、バカンスは最低2週間
◆ 日本の金融機関はボーナスと福利厚生で欧米金融機関と大差
◆ 最低賃金の引き上げが経済をけん引する
◆ 1997年の平均年収ピークから10年で60万円減少、2020年現在もまだ30万円低い水準
◆ 国税庁の「民間給与実態調査」は、非課税の通勤手当を除き年末調整後の給与と賞与の合計が産出され、最も信頼できるデータ
◆ アベノミクスによる利益は大企業が独り占め
◆ 社会保険料の増加で手取り年収は減少、さらにコロナ禍で記録的な落ち込みに
◆ 企業の衰退を招く早期退職制度
◆ 終身雇用は労働者に滅私奉公を強いる
◆ 労働組合は昇給よりも雇用の維持
◆ 定年延長も給料が上がらない原因に
◆ 終身雇用とジョブ型の二極化へ
この本の中盤では、「企業の異常な内部留保の積み増しがもたらす誤謬」および「日本人の給料が上がらない原因はデジタル化の遅れ」というテーマが論じられています。主なポイントは次の通りです。
◆ 日銀が大規模金融緩和を続けてドロ沼に
◆ 日本企業による海外企業の買収は相当数が失敗
◆ 企業の利益は家計に波及せず、消費も増えていない
◆ 企業が配当を増やしても個人には波及せず、外国人投資家が潤うだけ
◆ 賃上げを阻む人口減少と技術革新、悪循環を生む法人減税と消費増税
◆ 日本の労働生産性が低い原因は、デジタル化の遅れ
◆ オンライン診療やブランチレスバンキングへの移行で遅れる日本
◆ デジタル化が遅れた原因は、日本の組織風土で深刻かつ根深い
◆ デジタル化の基本は「本人確認」で、成否は「人間」の問題
本書の後半では、「政治家にも経営者にも国民を豊かにするという魂がない」、「雇用のセーフティネット不在の影響が大きかった」および「大企業と富裕層に有利な税制が給料格差を広げた」というテーマに関する考察です。主なポイントは以下の通りです。
◆ 安倍政権の「稼ぐ力を取り戻す」、「働き方改革」で、「ヒトのモノ化」が進んだ
◆ 日銀の大規模金融緩和の「真の目的」は、財政ファイナンス
◆ 国債価格暴落で追い詰められるのは弱者
◆ 円安により日本経済が成長するという幻想
◆ 日本経済に欠けているのは「成長」ではなく「分配」
◆ 企業業績が改善しても昇給がないのは、非正規雇用の増加
◆ 大企業と中小企業の格差が拡大(トリクルダウンは起こらず)
◆ セーフティネットを整備せずに非正規雇用を増やしたことが問題
◆ 連合が求める「格差是正」と賃金の「底上げ」
◆ ジョブ型雇用により雇用の流動性を高める方が経済成長できる
◆ 経済成長の鍵は技術革新
◆ 中央集権から「地方分散・分権型国家」へ
◆ 分配なくして成長なし、金融課税も国際水準並み30%へ
あなたもこの本を読んで、「日本の給料が上がらない問題」について、様々な意見を知り、自衛する道を探ってみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2627日目】