「労働問題を取材する中で見えてきたのは、雇用統計に反映されず、労働市場から “ 消えた ” 状態となっている中高年たちの存在だった。」と問題提起している本があります。
本日紹介するのは、NHKスペシャル取材班が2018年に放送した番組『ミッシングワーカー 働くことをあきらめて・・・』を書籍化した、こちらの本です。
NHKスペシャル取材班『ミッシングワーカーの衝撃-働くことを諦めた100万人の中高年』(NHK出版新書)
この本は、労働者に格差があり、弱い立場におかれている労働者が「労働市場から排除」されている先進国で共通の問題、とくに日本では「働きたくても働けなくたってしまった」人たち、すなわち、長期間にわたる「ひきこもり」状態になっている中高年の増加を、「ミッシングワーカー(=Missing Worker:消えた労働者)」と定義して、その原因と処方箋を考察している書です。
本書は以下の5部構成から成っています。
1.「ミッシングワーカー」とは何か
2.労働者はいかに社会から「消える」か
3.脱落するリスクは誰にでもある
4.専門家の視点から構造要因に迫る
5.「ミッシングワーカー」を脱するために
この本の冒頭で著者は、「今、40代、50代の中高年に異変が起きている。働かず、仕事を求めず、親の年金に依存して暮らす『隠れ貧困層』が急増しているのだ。」と述べています。
そして、親を亡くしたのちに「ひきこもり」の状態になってしまい、復職や生活再建が難しくなってしまうのだ、と著者はいいます。
そこには社会の様々な構造的要因が関わっていて、今後も中高年の「ひきこもり」は生み出され続ける恐れがある、ということです。
本書で「ミッシングワーカー」というキーワードに辿り着いたのは、アメリカ経済を取材している時だそうです。
リーマンショック後に失業率が改善していても、労働者の収入が上がらず、好況感も低いままである原因を、米シンクタンクが分析したところ、非正規労働で働いている人が中高年になって転職に躓いてしまうと、求職活動を諦めてしまい、労働市場から消えてしまうという現象が起きていることがわかったのです。
その失業率統計に表れない「働かない状態の人」を、ミッシング・ワーカーと定義したことから、日本でも同様の状況が起きているのではという仮説を持って調べ始めたという経緯です。
その結果は、わが国「労働力調査」において、総務省・西文彦研究員の協力を得て、40~50代の労働力人口の中で「ミッシングワーカー」のボリュームは、以下の通りと判明したそうです。
◆ 正規労働者(40~50代) 1,699万人
◆ 非正規労働者(同上) 795万人
◆ 失業者(同上) 72万人
◆ ミッシングワーカー(同上) 103万人
40~50代の労働市場においては、失業者を上回る規模で「ミッシングワーカー」が存在するという衝撃の事実が明らかになりました。
さらに、現在の40~50代の非正規労働者約800万人は、今後いつ転職につまづいて「ミッシングワーカー」になるかも知れないと考えられ、莫大な社会コストになっていく可能性があります。
本書の中盤では、NHKの取材を受けてくれた「ミッシングワーカー」の実例が紹介されています。親の介護をきっかけに仕事を辞めざるを得ないことが転機になり、二度と仕事に復帰できなくなった事実を読むと、「誰にでも起こりうるリスク」と感じてしまいます。
この本の後半では、独身中高年女性の場合は、独身中高年男性に比べてさらに環境は厳しく、支援が必要な状況が紹介されています。
本書の執筆中の2019年に、「ひきこもり」に関する政府の調査が行われ、これまでの39歳までの他に、40~64歳の「ひきこもり」が61.3万人もいることが発表されました。
ミッシングワーカー103万人の多くが「中高年ひきこもり」にもなっていると想像されます。
あなたも本書を読んで、働くことをあきらめた100万人を超える「ミッシングワーカー」について考え、労働市場の「落とし穴」に十分、注意して行動していきませんか。
2020年6月26日に、YouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』【第137回】働くことを諦めた103万人の中高年「ミッシングワーカー」にて紹介しています。
毎日1冊、ビジネス書の紹介・活用法を配信しているYouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』の「紹介動画」はこちらです。ぜひ、チャンネル登録をしてみてください。
では、今日もハッピーな1日を!【2386日目】