「人口減少で『入れるもの』が少なくなっていくのに、『入れる器』が人口増時代のままというのは常識的に考えておかしい。」と述べて、明治半ばの創設後130年間、殆ど変わらずに生き残ってきた47都道府県の再編と、それに代わる新たな道州制について、具体的に考察している本があります。
本日紹介するのは、1948年生まれ、早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、法学博士(慶応大学)、都庁で16年間勤務を経て、聖学院大学教授から現在は、中央大学名誉教授、行政学者の佐々木信夫さんが書いた、こちらの書籍です。
佐々木信夫『この国のたたみ方』(新潮新書)
この本は、「広げすぎた風呂敷をたたもう」と呼びかけ、人口減少時代を見据えて描く「日本の未来地図」とも言える書です。
本書は以下の6部構成から成っています。
1.広げすぎた風呂敷をたたもう
2.県庁は仕事のなくなった「卸売業者」
3.道州制で県をたたむ
4.それぞれの州の強みと売り
5.東京を減反しよう
6.二都抗争-大阪を「副首都」に
この本の冒頭で著者は、2040年には、全市町村の半数近くで人口が現在の半分以下に減り、高齢者の比率が35%を超えるとされる「2040年問題」を取り上げています。
そのときの問題点として、以下の5点が挙げられています。
◆ 出生率の低下で労働力不足が起こる
◆ 生活や産業活動を支えてきた都市機能が維持できなくなる
◆ 都道府県と市町村の二層制を維持し、それぞれに均一的な役割や業務を委ねる方式は立ちゆかなくなる
◆ 都道府県行政、市町村行政の大きな組み替えが必要となる
◆ 小規模市町村を取り巻く環境はより厳しくなる
つまり、「平成という時代は、リスクが蓄積し続けた時代でした。」と著者は言います。
これ以上、国や地方の借金を増やすことなく、膨れに膨れ上がったわが国の行財政システムを総点検し、たたむ方向を考える時期だ、ということです。
まず国内に130年間、変わることなく47もある県庁は仕事のなくなった「卸売業者」だと著者は断じています。市町村は「基礎自治体」、都道府県は「広域自治体」ですが、鉄道や車が交通手段となった現代では、都道府県という細切れでは処理しきれず、加えて地方分権一括法の制定で「国の出先機関」としての委任事務がなくなり、さらに増え続ける政令指定都市により、都道府県の存在意義はどんどん薄れているのです。
つまり、都道府県の見直しが必要な理由として、本書では以下の3つの理由を挙げています。
◆ 広域化の進展に伴うもの
◆ 分権化の進展に伴うもの
◆ 空洞化の進捗に伴うもの
さらに、「フルセット行政」の問題や、「大阪都構想」で知られるように「二重行政」の問題がクローズアップされるようになってきました。
そこでこの本では、「道州制で県をたたむ」ことを提唱しており、その狙いは次の3点です。
1.日本を地方分権が進んだ地方主権の国に変えること
2.東京一極集中を排除し各圏域が自立できるよう競争条件を整えること
3.国、地方の仕組みを簡素化し、機能性の高い政府システムに変えること
また道州制改革の論点として、以下の7点を挙げています。
◆ 道州をどのような性格の自治体にするか(地方庁、現行憲法の範囲内の地方自治体、憲法改正による連邦制型国家の州)
◆ 国、州、市町村の所掌事務の範囲
◆ 道州の区割り
◆ 道州制の制度の柔軟性
◆ 市町村と道州の関係
◆ 州政府の知事・議会などの制度設計
◆ 現存する地域間格差、税財政格差をどうするか
こうした案は、通産省(現経済産業省)出身の作家の故・堺屋太一さんが、こちらの著書で提唱していました。
堺屋太一氏の案では、2都を東京・大阪、2道を北海道・南海道(沖縄+鹿児島県奄美群島)、8州を以下の8つとしています。
1.九州州
2.中国・四国州
3.近畿州
4.東海州
5.北陸・信越州
6.西関東州
7.東関東州
8.東北州
そして、それぞれの地域の持ち味を生かしながら、州の強みと売りを国際社会にPRしていけばよい、という考え方です。
例えば、沖縄はハワイと競い合う観光リゾート、九州はアジアへのゲートウェイ、中国・四国は重厚長大産業と「オンリーワン」の存在、関西は関東と並ぶ日本の軸としてシンガポールのようなハブになる、北陸は環日本海経済圏の玄関口、関東は日本のエンジン、東北は住んでよし・食べてよし、北海道は北東アジアの拠点、といった位置づけです。
さらに本書では、東京と大阪の「二都構想」で大阪を「副首都」とすること、東京を2割減反することを提言しています。それは、東京は人とインフラの老化が直撃するからです。いわゆる「老いる東京」問題です。
この本の最後で著者は、「日本の人口問題の本質は『数』の問題より『地域偏在』の方にあります。」と述べ、超過密の「東京国」と過疎に苦しむ「地方国」の2つに分かれていることこそが問題の本質だ、としています。
20世紀の人口膨張期を乗り切るために目一杯に広げた統治のしくみ、大風呂敷をいよいよたたむ時期です。本書ではそれを「廃藩置県」ならぬ「廃県置州」に求めています。
最後に、「人生の本舞台は、つねに将来にあり」という尾崎行雄の言葉を紹介して、この本は締め括られています。
あなたも本書を読んで、「この国のたたみ方」を考えるキッカケにしてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!