書評ブログ

『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』

”努力すれば報われる”――その言葉が、いま最も遠い国になってしまった。」――そんな現実を突きつけ、近未来の日本社会をも映し出す衝撃のルポがあります。

本日紹介するのは、韓国ソウル生まれ、淑明女子大学経営学部卒業後、上智大学大学院文学研究科新聞学専攻修士課程を修了。東京新聞ソウル支局記者として社会・経済・教育問題を幅広く取材し、現在はフリージャーナリストとして活躍する金敬哲(キム・ギョンチョル)さんが書いたこちらの書籍です。

金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)


この本は、韓国社会“新自由主義” を極限まで突き詰めた結果、子どもから高齢者まで全世代が競争に追い立てられる「超格差社会」と化した現実を、現地ルポデータの両面から描き出した渾身のドキュメントです。
教育・雇用・家庭・老後――人生のあらゆる段階で「勝者か敗者か」が問われ、幸福度がOECD最下位クラスに沈む韓国。その姿は決して他人事ではなく、「日本の近未来の写し鏡」でもあると著者は警鐘を鳴らします。


本書は以下の5部構成から成っています。

1.過酷な受験競争と大峙洞(テチドン)キッズ

2.厳しさを増す若者就職事情

3.職場でも家庭でも崖っぷちの中年世代

4.いくつになっても引退できない老人たち

5.分断を深める韓国社会


本書の前半では、「過酷な受験競争と大峙洞キッズ」および「厳しさを増す若者就職事情」について描かれています。主なポイントは以下の通りです。

◆ 小学5年で高校1年の数学を先取り―― “教育戦争” と呼ばれる受験社会の実態

◆ 「塾通いが日常」――一日3軒をはしごする小学生たちの過酷な日常

◆ 幸福指数はOECD加盟国で最下位クラス

◆ 名門大学卒でも職がない――文系就職率わずか56%の現実

◆ “就職できない世代”が誕生し、「N放世代(あきらめ世代)」が社会に蔓延


この本の中盤では、「職場でも家庭でも崖っぷちの中年世代」について、最も働き盛りの世代が抱える苦悩をリアルに描き出します。主なポイントは次の通りです。

◆ 教育費と住宅ローンに追われ、家庭崩壊寸前の中年層

◆ 平均退職年齢は男性53歳、女性48歳――“中年リストラ”が常態化

◆ 早期退職後も家計を支えるため、非正規職に再就職する現実

◆ “中年破綻”が社会問題化――「自己責任論」の限界

◆ 家族のために働いた結果、家族から孤立する「サラリーマン地獄」


本書の後半では、「いくつになっても引退できない老人たち」および「分断を深める韓国社会」として、老後と社会の歪みを深掘りしています。主なポイントは以下の通りです。

◆ 老人貧困率45%超――OECD最悪レベルの高齢者格差

◆ 平均引退年齢73歳、退職後20年も非正規で働き続ける現実

◆ 年金制度の脆弱さと、子どもに頼れない家族構造の変化

◆ 若者VS高齢者、富裕層VS庶民――あらゆる階層で進む社会分断

◆ 「努力神話」のもとに広がる絶望と孤立――日本にも忍び寄る“同じ兆候”


本書の魅力は、統計データや政策分析にとどまらず、実際に取材した現場の ”生の声” を通して、「人間の尊厳とは何か」を問い直している点にあります。
成功を追い求めるほど幸福から遠ざかる――そんな逆説が韓国社会を蝕み、今や “無限競争社会” という言葉が現実となっているのです。

著者はこう警告します。
「これは、政権が新自由主義を誤用した結果生まれた “社会の崩壊モデル” であり、日本も同じ道を進みつつある。」

この本は、経済や教育の問題を超え、「人が人らしく生きる社会とは何か」を深く考えさせる、現代の必読ルポです。


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では、今日もハッピーな1日を!【3903日目】