「手に負えないほど膨大な情報に囲まれているうえに、フェイクニュースがひっそりと、でも大量に紛れ込む。」「そんなとき、出来るだけ道に迷わないようにするためにするためには何が必要なのか。まずは静かに耳を澄ますことだ、とぼくは思う。」と述べて、本質をつかむ「聞く力」の大切さを説いている本があります。
本日紹介するのは、1960年生まれ、TBS入社後、社会部記者、「筑紫哲也NEWS23」「報道特集」のディレクターを経て、夕方の報道番組「ニュースの森」メインキャスター、ニューヨーク支局長などを経て、BS-TBS「週刊報道LIFE」のキャスター・編集長の松原耕二さんが書いた、こちらの書籍です。
松原耕二『本質をつかむ聞く力-ニュースの現場から』(ちくまプリマー新書)
この本は、テレビの世界で記者やキャスターの仕事を30年以上やってきた著者が、散らかった情報をどう読み解いていくのか、間違った情報にどうしたら振り回されないかに悪戦苦闘してきた経験をもとに、聞く力について記した書です。
本書は以下の4部構成から成っています。
1.聞かない時代-都合のいいことだけを聞きたい
2.歴史の中で聞く力-真実はどこにあるのか
3.相手の言葉に耳を澄ませる
4.フェイクニュース時代の聞く力
この本の冒頭で著者は、「人はおうおうにして、聞きたいことしか聞かない」と述べています。
そして、「聞かない時代」になったことの現象として、次のような事実を挙げています。
◆ 忖度(ソンタク)によって空気を読む人々
◆ メディアの報道に耳をふさぐ
◆ 聞かないことで生まれる分断
続いて、歴史の中での「聞く力」について、以下のような考察を提示しています。
◆ 沖縄戦での住民の戦闘死
◆ 関東大震災での朝鮮人暴動のデマ
◆ 西アフリカのルワンダで起きた虐殺(ジェノサイド)
◆ ナチスドイツのユダヤ人大量虐殺
◆ 地球温暖化についての「両論併記」の罠
本書の後半では、相手の言葉に耳を澄ませることの大切さを、次の通り説明しています。
◆「反」とつく主張に注意
◆ 相手の「言わないこと」に耳を澄ます(=都合のいいことだけを声高に言う人)
◆ 結論だけでなく、話の全体像に耳を傾ける
◆ 話の意図を考えながら聞く
◆「言い換え語」の本当の意味を見抜く
◆ 論理的に見える言葉こそ、やっかいだ
◆ 本質は何かを見失わないように
◆ 問いの奥にまで耳を澄まそう
この本の最後で著者は、フェイクニュース時代の聞く力について解説しています。ポイントは以下の通り。
◆ グルメ、恋愛など誰もが興味を抱くテーマばかりをテレビが扱う
◆ テレビから複雑なものが排除されていく
◆ テレビに忍び寄る「ヘイト」と「フェイク」
◆ ニューヨークタイムズやプロパブリカが取る「ファクト(事実)に基づく報道」
続いて、本書では「報道の役割とは何か」について、社会学者・小熊英二さんの次の言葉を紹介しています。
「もしあなたが体調が悪くて、医師にかかった時に、『発疹が出ています』『熱が39度あります』としか言われなかったらどう思うだろうか」「たぶん医師にこう言いたくなるはずだ。『要するに自分は何の病気で、どう直せばいいんですか?』と。」
「報道機関の人間は幅広く情報を集め、それを理解しやすく提示するための専門的な訓練を受けている。だからただ情報を垂れ流すだけでなく、『何が起きているかを診断し、放置すれば悪化することを警告する』のは、社会に必要な役割であり、報道の公正なあり方である。」
この本の「おわりに」で著者は、アメリカで伝説のキャスターと呼ばれたウォルター・クロンカイトさんへのインタビューで語られたインターネットに関する警告の言葉を、以下の通り紹介しています。
「インターネットは若い人にとても人気があります。新しいスタイルですし、読みたい記事を選ぶこともできます。理解できないニュースや、知りたくないニュース、また自分が全く知らないニュースに耳を傾ける必要がなくなります。その結果、興味を狭めてしまい、知識は非常に限られたものになるのです。」
そして、著者は締めくくりとして、情報に出来るだけ、能動的に、主体的に接する中で、次の2つのことを心がけている、と述べています。
◆ 全体像をつかむこと
◆ 本質は何かを常に考えること
あなたも本書を読んで、本質をつかむための「聞く力」について考えてみませんか。
2020年6月27日に、YouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』【第138回】ニュース報道のプロが説く「本質をつかむ力」にて紹介しています。
毎日1冊、ビジネス書の紹介・活用法を配信しているYouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』の「紹介動画」はこちらです。ぜひ、チャンネル登録をしてみてください。
では、今日もハッピーな1日を!