新型コロナ禍で業績が大きく悪化する企業が多い中で、ブランド力のある企業は「見えない価値」を築き、収益を上げているからこそ、このような事態の中にあっても強く生き残っていけるのではないか、と述べて、「ブランディング」の重要性や活動の流れについて分かりやすく解説している本があります。
本日紹介するのは、米国クレアモント大学院大学ドラッカースクール卒業(MBA)の後、米系コンサルティング会社でイオンのPBのブランディングに従事、さらにマツモトキヨシに入社して、同社のPB「matsukiyo」など新しいブランドを立ち上げた実績を持ち、現在は独立して株式会社ブランドテーラー代表取締役の乙幡満男さんが書いた、こちらの書籍です。
乙幡満男『ブランディングが9割』(青春出版社)
この本は、ブランドにとって重要なこと、すなわち、ブランディング活動を通じて、「価値」の部分をつくり、維持し、高めていくことについて、著者の豊富な経験をベースに、著名なブランド論やマーケティング理論も織り交ぜながら、小さな企業が実践的に活用しやすいように分かりやすく解説している書です。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.「高くても売れる」のは、ワケがあった! <ブランディングとは何か>
2.まずは、「自分たちの強み」を見つける <自社の特徴>
3.「顧客の本当のホンネ」を探す <インンサイト>
4.競合との最大の違いは何か <差別化/ポジショニング>
5.価値あるブランドはこうつくる <「ブランドらしさ」の確立>
6.イメージ通りのブランドを実現させるコツ
7.成功が続く「ブランドの育て方」
この本の冒頭で著者は、「そもそもブランドとは何か」という定義について、「企業とお客さんの接点を通して、お客さんに評価され、お客さんの頭の中に蓄積されていく価値」と述べています。
企業側としては、商品や売場、オンライン上のコミュニケーション、店頭での接客など、様々なお客さんとの接点(=タッチポイント)において、ブランドの特徴やお客さんへの提供価値について、一貫性を持って伝えていく必要がある、と著者は言います。
そして、ブランディング活動とはブランド価値を高める活動のことで、現代では、お客さんと上手に関係を構築し、共にブランドを創り、ロイヤリティ(お客さんのブランドへの愛着・忠誠心)を高めていくことが、ブランディングのポイントになっているのです。
また、ブランディングとマーケティングの関係性については、「マーケティング戦略の中心にブランドを置くこと」が重要であり、ブランディング活動とは、マーケティング活動(=4Pまたは4E)を通じて、また一貫したタッチポイントを通して、お客さんの頭の中にブランドをつくること、と本書では説明しています。
この本では、ブランディング活動を次の3つのステップに分けて説明しています。
◆ ステップ1: ブランドの現状分析
◆ ステップ2: ブランドのコアとなる概念づくり、戦略を策定する
◆ ステップ3: 概念をもとにブランド戦略を実行する
ステップ1で大事なのは、まず3C分析(自社分析=Company、顧客分析=Customer、競合分析=Competitor)により、「自社の強み」を生かし、「顧客のホンネ」を探り、「競合と差別化」できるところを探していくことです。
ブランディング活動で「らしさ」「こだわり」「独自性」を築いていくことによって、ブランド価値が上がっていくのです。
その時に、人間同様、信念のないブランドにはなかなか共感してもらうことはできないため、あなたの企業が担う社会的使命である「ミッション」が重要になります。
また自社が気づいていない強み、課題を探すため、「ジョハリの窓」の活用を著者は推奨しています。とくに、「盲点の窓」(=自分はわかっていないが他人は知っている領域)を理解することは重要です。
そのうえで、ブランドの目指す姿(ブランドの提供価値)を明確にしていくのです。
ステップ1の後半では、ブランドのターゲットを絞り込むことを強調しています。ターゲットの属性は「人口統計的属性」(デモグラフィック)、「心理的属性」(サイコグラフィック)の両面から捉えていきます。
さらに、ターゲットの代表的な一人を具体化した、象徴的な顧客像である「ペルソナ」を設定して、ターゲットの視点で考えることが大切です。
そして、お客さんの心の奥底にある「ホンネ」(=マーケティング用語で「インサイト」)を探ります。「インサイト」とは、ブランドを選択する際のお客さんの洞察や深い理解のことで、「購買意欲を後押しするボタン」とも言われています。
「インサイト」がなぜ重要かと言えば、顕在的なニーズは、既に競合他社も把握しており、そこをもとに開発された商品では、差別化することが難しいからです。
ところが、潜在的なニーズ(=「インサイト」、すなわち顧客の「ホンネ」)であれば、お客さんが手に取った時に初めて「こういうものが欲しかったんだ」と気づくので、競合他社と差別化でき、特徴ある商品・サービスになるのです。
インサイトについて、より詳しく知りたい人の参考文献として、著者は次の2冊を紹介しています。
続いて、ステップ1の最後として、競合との差別化およびポジショニングについて解説されています。
差別化とは、「競合が真似できないような、自社にしかできない独自のユニークさがお客さんに魅力的な価値と認められること」です。そうなれば、ブルーオーシャンを自社ブランドでほぼ独占できるのです。
そのためには、ある特定分野で1番を目指すこと。「ポジショニング」とは、「お客さんの頭の中に、独自性のある差別化されたイメージを植えつけていくこと」です。
ステップ2は、価値あるブランドとして、「目指す姿」を明確にすること。目指す姿は、「ブランドプロミス」または「ブランドプロポジション」と言ったり、「ブランドアイデンティティ」「コアバリュー」「ブランドエッセンス」など、様々な言い方をしますが、どれも同じで、ブランドの中核概念、すなわち「目指す姿」になります。
ブランドの「らしさ」を築くことですが、それはこれまで説明してきたように、ステップ1の次のような考察・活動からつくっていきます。
◆ 3C分析(自社分析・顧客分析・競合分析)
◆ 自社の強み
◆ 顧客インサイト
◆ 競合との差別化
◆ ブランドの「目指す姿」の決定
チェックポイントとしては次の4点です。
1.自社の強みや個性が出ているか
2.顧客にとって価値がある者になっているか
3.誰にでもわかりやすく、従業員やお客さんに共感してもらえるか
4.「当たり前のこtお」になってしまっていないか
顧客にとっての価値とは、ブランドを構成する価値のことですが、主に以下の3つの価値から成り立っています。
◆ 機能的価値(スペックなど数値化できるもの)
◆ 情緒的価値(体験によりポジティブな感情になること)
◆ 自己表現的価値(体験により自己表現・自己実現するもの)
さらに、ブランドにも人のような「個性」があり、ブランドパーソナリティーと呼んでいます。
本書の後半では、ステップ3のブランド戦略の実行について書かれています。ポイントは以下の通りです。
◆ ブランド要素は、ビジュアル要素(ロゴ・デザインなど)と、バーバル要素(ブランド名、ブランドステートメントなど)
◆ タグラインというブランドのスローガン
◆ デザイナーとの協業
◆ ブランドの「らしさ」を保つには、人ではなく「ルール」
◆ ブランド管理は、品質を管理することと同じ
◆ 社内で多くの人を巻き込み、自分ごと化する「インナーブランディング」
◆ アウターブランディングでは、「記事」として取り上げてもらう工夫を
◆ オウンドメディアを積極的に活用する
◆ 企業と顧客で共にブランドを創っていく「共創」の時代
◆ コトラーのかーけティング4.0で提唱する「5A理論」で、「推奨」(=Advocate)を目指す
この本の最後で著者は、ブランドの本質的なところは残しながら、時代の変化に合わないところは新しいものに変えていくことを提唱しています。
本書は、「イイもの」でも売れない時代に、10年後も生き残れるかどうかは「ブランディング」にかかっていることを示し、ブランディング活動の流れを実践的に解説していて、小さな会社でもすぐに活用できるように提示している点で画期的です。
お金をかけずに売上を増やす極意が満載のこの本を、すべてのスモールビジネスの経営者、起業家の方々に、心から推薦します。
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では、今日もハッピーな1日を!【2435日目】