田中靖浩氏は、外資系コンサルティング会社勤務を経て、公認会計士として独立開業した。現在は、産業技術大学院大学客員教授であり、経営コンサルティングや講演、執筆など幅広い活動をしている。
本書は、日本の職場を歴史的に分析した名著で、40歳からの新しい生き方を提案している。とくに、日本経済の変遷を分析し、「もはや戦後ではない」と、現在の日本経済を違った意味で語った言葉は印象的だ。
著者によれば、戦後日本経済は以下の3段階の時期に分かれるという。
1.第1期 : 戦後~1970年代 (成長期) 9%成長
2.第2期 : 1970年代~1990年代 (安定期) 4%成長
3.第3期 : 1990年代~現在 (低迷期) 1%成長
以上の状況を、田中氏は9・4・1の法則と呼び、日本経済の変遷を解説している。第1期から第2期へ移行した転機となったのは1973年の石油危機だ。また、第2期から第3期への移行は1990年から始まったバブル崩壊だ。
日本企業やその職場をめぐる環境や状況は、成長率が下がるにしたがって徐々に厳しいものになっていった。とくに1%という低迷期に入ると、企業に余裕がなくなり、経営者は人件費削減に手を付けた。
人件費削減は巧妙な形で進行した。その形態は以下の3点だ。
1.正社員の自然減
2.非正規雇用の増加
3.成果主義の導入
1993年に起きた、パイオニアによる「指名解雇」問題が、経営者に大きなインパクトを与えた。いったん正社員として雇用すると、簡単には解雇できないという事実だ。
そのために、上記3点のような巧妙な形で、徐々に人件費削減を行っていった。そのために職場の雰囲気は暗く、厳しくなり、「うつ病」の社員が急増した。
中高年の自殺者も、これまでの歴史上なかったペースで増え続けている。日本全体の成長率が下がり、利益を上げられなくなった企業は、人件費の削減や過重労働で利益を上げるしかなくなった。
交通費、交際費、広告費の3Kコストを削減するだけでは企業は生き残ることが難しくなった。全ての企業が厳しい競争を勝ち抜くために人件費削減に走ったのだ。
さらに、米国発の株主重視思想とITの導入が日本企業を直撃した。従業員よりも利益や配当で株主に報いるべきだとする資本主義の徹底と、IT活用による徹底的な効率化だ。
本書の分析を読めば、日本企業の闇の深さがよく理解できる。すべての経営者、経営幹部、そして一般社員の方々に、今の企業や職場が置かれた状況を理解する書として、一読を薦めたい。