浜田宏一エール大学教授は安倍政権のブレインで、アベノミクスの生みの親の一人だ。白川前日銀総裁が東京大学在学中の恩師でもある。
白川前総裁は東大時代はたいへんな秀才だったそうで、浜田教授の弟子の中でもピカイチと言うことだが、本書のなかでは、「歌を忘れたカナリア」と批判されている。中央銀行は物価安定だけでなく、雇用の維持・拡大も使命、というのが浜田教授の持論。
日銀は、物価の安定イコール通貨価値:円の安定だけを追っており、失業の増大、雇用の縮小に目を瞑っている、というわけだ。米国も欧州も世界の中央銀行が雇用の維持・拡大に責任を持っているのは常識、ひとり日銀だけがそれを忘れている、と手厳しい。
浜田氏は安倍首相に日銀の金融緩和によるデフレ脱却、インフレターゲット(2%の物価上昇)を進めるよう強く進言した。その内容が本書だ。冒頭には、かつての愛弟子:白川日銀総裁(当時)に宛てた公開書簡が書かれている。
アベノミクスの狙いや今後の日銀の金融政策がわかる貴重な一冊である。黒田日銀総裁は、基本的には浜田理論に基づいて金融緩和を進めている。違うのは黒田氏は財務省出身で消費増税論者、浜田氏は増税慎重論という点くらいだ。
現在の安倍政権の経済政策は、本書に描かれている浜田理論に立脚していることは事実であり、そういう意味で本書は多くの示唆に富んでいる。主張も明確であり、ファイナンスを学ぶ上で有益な書として推薦したい。