東海林智氏は毎日新聞社会部に勤務、厚生労働省を担当している。10年にわたって丹念な取材と緻密な分析を積み上げてきた記者のルポルタージュが本書だ。
貧困の現場に自ら足を踏み入れ、路上生活者、日雇い派遣、フリーターなど現場の実態が細かく描かれている。とくにホームレスと一緒に路上に寝泊まりまでして、その生活の実態を把握したのは圧巻だ。
格差社会とか階級社会と言われるようになった現代。1990年代のバブル崩壊以降、とくに2008年のリーマン・ショック以降は格差がますます拡大している。インターネットによる情報社会が進展すればするほど、格差はさらに開く傾向にある。
これまでは、大規模な設備投資、大規模な雇用を生む製造業を中心に日本経済は成長してきた。団塊の世代という大量の労働力兼消費者が、それを支えてきた。しかし、労働人口は急激に減少し、雇用を生まないネット企業が経済の主役になりつつある。
本書は、社会の底辺に位置してしまった人々の現場に焦点をあて、一度転落すると二度と這い上がれない現代社会の実態を描いている。せっかく入社した大企業の正社員という地位を、ちょっとしたキッカケで退職によって捨ててしまい、契約社員、派遣社員、失業保険生活、ホームレスへと転落していく。
貧困の悪循環に入ってしまうと、這い上がって元へ戻るのは極めて困難なのが、現在の日本の労働環境だ。ふとしたキッカケで自分の身にも同じことが起こるのではないかというリアリティが本書にはある。
現代社会の矛盾と構造を現場の視点で見事に描いた本書を、働くすべての人々に薦めたい。現代は、変化を止められない社会なのだ。働き方や生き方の指針を得る書として一読を薦めたい。