南場智子氏はマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得した才媛。マッキンゼー時代は大前研一氏の弟子のひとりだ。
マッキンゼーでコンサルをしていた会社に提案したネット・オークション事業が採用されず、クライアントの社長から 「そんなに熱っぽく語るなら、自分でやったらどうだ。」と言われて、自ら起業して、DeNAを設立し、やってみてしまったのが南場氏だ。
本書を読むと、起業したばかりの頃の混乱と苦労が手に取るように分かる。精鋭ばかりを集めたチームだったが、時間がない中で多くの失敗を経験し、まさに綱渡り経営だった。
どんな窮地に陥っても明るさと勇気を失わない南場氏のタフさは男性経営者と同じだ。いや、むしろ男性より強いだろう。創業時のDeNAが手掛けたビジネスモデルはヤフー・オークション (通称:ヤフオク)にトップの地位を取られてしまう。
インターネット・ビジネスはトップ企業が総取りする世界なので、DeNAは窮地に陥った。しかし、南場氏にとって幸運なことに、DeNAは2つの大きな転機を迎え、それが悉く時流に乗った。
1つは、サービスをパソコンからモバイルにシフトしたこと。NTTドコモを筆頭に携帯電話が急速に普及、とくにドコモの i モードはモバイル・インターネットを一気に主流に押し上げた。
もう1つの転機がゲーム事業に乗り出したこと。携帯でゲームをするライフスタイルが若者に広がったことが、DeNAの成長を決定づけた。しかも今度はナンバーワンの地位を獲得、勝ち組への軌道に載った。
さらに i Phone に牽引されたスマートフォンの爆発によって、DeNAの携帯ゲーム事業も爆発した。アイテムの取得に課金するという新たなビジネスモデルは若者の支持を受け、IT企業の新しい収益化モデルとなった。
南場氏は経営者としてDeNAの急成長をまさに先頭に立って引っ張った。その経営手腕は大前研一譲りの理論派であり、行動派。切れ味鋭く、タフだ。
本書の最後で、著者は夫の病気に付き添い支援するために代表を辞任するに至った決意について語っている。ほんとうに波乱万丈の人生を生きてきたことがわかる。何をやるにも猛スピードで、徹底的にやる姿勢には驚くばかりだ。
起業を目指す人には必読の名著、心から推薦したい。