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『1冊10分で読める速読術』って本当ですか?

速く、深く、大量に読む読書の技術として「1冊10分で読める読書術」を提唱している人がいます。1950年生まれの工学博士である佐々木豊文さんです。

 

そこで今日紹介するのは2010年に文庫本として書き下ろしたこちらの本です。

 

佐々木豊文『1冊10分で読める読書法』(知的生き方文庫)

 

この本は、すべての文字を1文字ずつ、しかし高速で追いながら、しかもしっかり内容を理解する、という方法です。高速で読むというスピードは「1分間に1万字以上」ということです。

 

単行本1ページには約500字が詰まっていて、最近の一般書は200ページほどのものが多いので、1冊に10万字が詰まっていると考え、「1冊10分で読む」という計算になります。

 

 

かつて2015年1月31日付このコラムにて紹介した下記の本では、「1分間で本が読める」というコンセプトでした。考え方はそれに近いものがあります。

 

石井貴士『本当に頭がよくなる「1分間読書法」』(SBクリエイティブ)

 

 

http://bit.ly/1CqZbWV

 

こちらの本も衝撃的でしたが、共通するのは「脳」を開発することにより「情報処理能力」を高めるということです。もうひとつ、人間の習性として「慣れ」の力はとても大きいという点があります。

 

 

佐々木さんのいう「速読脳」のつくり方は、以下の構成にて本書で展開されています。

 

 

1.あなたの常識を引っ繰り返す「1冊10分」の速読術
2.この方法であっというまに本1冊が頭に入る
3.読んだ内容を頭にしっかり残す記憶術
4.人生が「圧倒的有利」になる読書生活の方法

 

 

著者はまず、「デキる人はなぜ多読家なのか」という問いに対して、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツさんが速読を活用して膨大な読書をしていた事例を挙げています。

 

そして、読書で養われる能力として次の4つを述べています。

 

1.情報力
2.判断力
3.先見力
4.人間力

 

人間の持つさまざまな能力が読書によってレベルアップするため、ビル・ゲイツさんは人並み外れた能力を持ってビジネスに大成功したと説明しています。

 

この中で本書の中心になるのは構成2番目の「速読脳開発プログラム」3つのステップです。

 

 

1.文字を負う速度を上げるトレーニング(2000字/分)
2.「情報読み」をマスターする
3.「速読脳」を開発する

 

 

とくに、第2ステップの「情報読み」がポイントになります。私たちは普段、「全体読み」「部分読み」という2種類の読み方をしていて、著者は前者を「鑑賞読み」、後者を「情報読み」と呼んでいます。

 

全体を通読するのが「鑑賞読み」で、私の「多読法」では「トレーシング」と呼んでいます。いわゆる小説などの書物の「通読」です。一方で部分にフォーカスするのが「情報読み」です。

 

佐々木さんは「情報読み」の具体的な手法として以下の2つを挙げています。

 

1.検索読み(知りたい具体的なキーワードを検索する)
2.スキャニング(キーワードを含む文章にフォーカスして高速で読む)

 

次に、「速読脳」を開発するために「速読眼」を開発することが必要で、それは以下の「5つの視角機能」を徹底的に鍛えることだと言います。

 

1.眼力(まばたきをしない)
2.弾力(高速で目を動かす)
3.リズム(深く集中できる)
4.速度(自在に速度を変えられる)
5.合焦力(文字に焦点を合わせる)

 

構成3番目では記憶に残す方法が説明されていて、これは私の「多読法」と基本的に同じ考え方です。記憶には以下の3つのプロセスがあって、これをスムースに機能させることが重要です。

 

1.記銘(覚える)
2.保持(保つ)
3.想起(思い出す)

 

私たちの記憶には「短期記憶」「長期記憶」があって、エピソードや意味と結び付けた「長期記憶」にすることが大切です。記憶力は使うことによって伸びるもので、年を取るほど「記憶容量」は大きくなります。

 

効率よく記憶するには同じ分野の本を同時並行で読んだり、繰り返して読んだり、人に内容を説明するなどアウトプットをしたりすれば効果が大きくなります。

 

構成の最後4番目には、読解力を高める7つのポイントが提唱されていて、以下の紹介します。

 

 

1.語彙力を伸ばすには、たくさんの本を読む
2.知識力を伸ばすには、簡単な本から読む
3.経験・体験力を伸ばすには、積極的にいろいろな体験をする
4.論理思考力を伸ばすには、言葉の定義に注意し感情に振り回されない
5.想像力を伸ばすには、物語・小説・台本を登場人物になったつもりで読む
6.記憶力を伸ばすには、文学作品を読んでワーキングメモリーを増やす
7.統合力を伸ばすには、日常生活の中で空気を読む

 

 

本書の最後では、集中力を高めるための方法として、「瞑想」のすすめ読書にいい食べ物の紹介なども行われています。本書は単なる「速読」のテクニック本ではなく、「読書」の本質に迫る名著と言えるでしょう。

 

私が提唱する「ビジネス力を上げる多読法」とも基本的に同じ考え方で、ぜひ本書の一読をお薦めします。

 

では、今日もハッピーな1日を!