本書は、2009年4月に「派遣切り」にあった30代の若者が孤立死した事件を、NHKクローズアップ現代という番組が採り上げて報道した内容について、取材の過程も含めて詳しく記したものだ。
取材班は、事件の現場や孤立死した若者の生活、仕事、交友関係などを丹念に取材して歩いた。また、NPO法人「北九州ホームレス支援機構」の代表に同行取材を重ねた。
その過程で、取材班の仮説として描いた 「今回の30代若者の孤立死は決して特殊な事件ではなく、現在の30代生活者を取り巻く環境や境遇から、「多くの若者に起こり得る身近な問題ではないか」 という事実が明らかになってきた。
番組終了の直後から、ツイッターやブログなど、ネット情報はこれまでの番組には無かった程、広範な反響が広がり、30代若者から多くの共感の声が寄せられた。
孤立死した39歳の若者は、自宅の死の床近くに、「助けて」とだけ書かれた親戚宛ての封書を残して亡くなった。どうして、周囲の友人や知人に「助けて」と言えなかったのだろうか。
現在(2010年当時)の30歳代は人口が多く、小さい頃から厳しい受験競争に晒されてきた。社会に出る年も、バブル崩壊で就職氷河期と呼ばれ、正社員採用は極めて厳しい道となっていた。
そうした中で、現在の30代は以下のキーワードに敏感だ。
1.自己責任
2.成果主義
この二つを徹底的に大人から刷り込まれ、20歳代の頃は周囲に助けを求めることはできたが、30歳代になると親にも頼れない、すべて自己責任で処理するという意識が極めて強い。
生活できないほど追い込まれ、ぎりぎりのホームレス状態になったとしても、誰にも打ち明けず、助けを求めない。NPO法人が支援を申し出ても断る30代ホームレスが殆どだ。
育った時代が形作った30歳代若者の思考と行動のパターン。本書はそんな背景を鋭く描き出し、多くの若者の共感を得た。30代の若者はもちろん、若い部下や子供を持つ全ての方々に本書の一読を薦めたい。