司馬遼太郎氏の歴史小説 『坂の上の雲』 という名作をもじって、本書は 『坂の上の坂』 というタイトルにされているが、これは60歳で人生を終えた戦前と異なり、現代は20~30年間の定年後生活が待っている、という意味を込めたものだ。
『坂の上の雲』は、経営者がビジネスマンに薦める書籍でつねにトップクラスに入る、時代を超えた名著だ。はるか高い目標を掲げ、坂を上り続ける若者を描いた司馬遼太郎氏の物語は読者の心を打つ。
『坂の上の坂』は、50代からの30~40年をどう過ごすかにより、60代以降の「坂になっている残り20~30年の人生」を、上り坂に沿って上昇気流で送れるか、それとも下り坂の転落人生となってしまうか、大きく分かれると説いている。
私も著者の見方に同感だ。これからは格差がますます開く社会に向かっており、それは世界中で起こっている潮流だ。とくに、60~65歳以上の、従来は「老後の余生」と呼ばれていた時期に、とりわけ顕著になると思っている。
年金、雇用、医療、災害など、国も社会もあてにならない時代がやってきている。自分でいかに自分の後半生を築き上げていくかが今、問われている。
著者の藤原和博氏は1955年生まれで、団塊の世代より少し下になる。東大経済学部を卒業後、リクルートに入社し、40歳で退職してフリーで仕事をした後、47歳の時に、民間人で初めて、東京都杉並区立和田中学校の校長になった。
公立中学校の荒れ方はひどく、いじめなどが社会問題にもなっていたが、和田中では様々な学校改革、教育改革が実践され、全国から大きな注目を浴びた。
5年間で校長を辞めた後は、橋下大阪府知事の特別顧問に就任して教育改革を推進している。藤原氏の起業家精神溢れる改革の実行力は高く評価されている。
リクルートのDNAが著者を突き動かすのだろう。本書では、充実した人生の後半期を送るためのヒントが満載だ。私も同世代に生きるビジネスマンとして、多くを学ばせてもらった。
40~50歳代の現役職業人の方はもちろん、若い優秀なビジネスパーソンにもぜひとも読んでもらいた一冊だ。